【浅野純次・読書の楽しみ】第56回2020年11月17日
◎クレア・プレストン『ミツバチと文明』(草思社、1980円)
ミツバチは事実上、最初の家畜だと言われます。でもけっして飼い慣らされることはありませんでした。著者によれば、「ミツバチ社会の道理が彼らを本質的に野生たらしめている」のだそうです。
ともあれミツバチと私たちは先史以来の付き合いだとか。それほど人類は蜂蜜や蜜蝋やプロポリスのお世話になってきたわけです。そしてミツバチといえば無私の働き者というイメージがすっかり定着してしまいました。でも本書はミツバチの本当の姿を、明と暗の両面から生態学的に描いていきます。
さらにハチミツが文化的にどう認識され表現されてきたかが紹介されます。文学、絵画、映画、科学、さらに経済学まで。簡潔ながらここまで徹底的に描かれるのは初めてではないでしょうか。
とくに関心深いのはあのハニカム(honey-comb)構造といわれる独特の六角形の巣の造形的な奥深さです。人類にとって、これは神秘といっていいほどのもので、本書の極めて興味深い個所です。
終章「消え行くミツバチ」では、近年の大量失踪をめぐる話題が取り上げられますが、欲をいえばここをもうちょっと詳しく述べきたってほしかった。でも「文明」論なのでこれでしょうがなかったのかもしれません。
◎平良隆久『まんがでわかる日米地位協定』(小学館、1870円)
地位協定と言われてもピンと来ない人が多いでしょう。在日米軍、米軍基地、米軍人が持ちうる権利を定めた協定なのですが、米側に極めて有利な内容が問題になっています。
そこで協定の実態を平易に説明するために漫画を各章の頭にもってきたところが本書のミソで、漫画のシナリオはゴルゴ13の原作者である著者によって書かれました。
漫画に続く文章編もなかなかしっかり書かれています。米軍人の犯罪はほとんど日本の司法が及ばないこと、米軍機が自由に市街地上空を低空飛行して市民の生活を脅かしていること、基地による環境汚染が止まらないこと、などすべて地位協定が関わっています。
そしてドイツ、イタリア、韓国では、厳しい対米交渉の結果、地位協定上の米国の特権を大幅に限定することに成功していることが紹介されます。
日本も基地周辺住民だけが泣き寝入りするのでなく、全国民がしっかり目を向けるべき時だと思いますが、本書はその絶好の手引きになるでしょう。
◎坂上泉『インビジブル』(文藝春秋、1980円)
次は、見事な出来栄えの警察小説を。舞台は戦後間もない大阪。同一犯と思われる連続殺人事件が起こりますが、警察内部の捜査会議の状況や、刑事たちの個性的な姿が生き生きと描かれて、それ自体が最大の読ませどころになっています。
平凡だが努力家の新米刑事と、東京からやってきたエリートで融通のきかない熱血漢の警部補が捜査でコンビを組むのですが、万事に対照的な2人が対立しつつしだいに共感していく過程がとてもよく書けていて、謎解き以上に楽しめます。
旧満州で見捨てられた開拓民、戦後も続いた麻薬栽培と密売が事件のカギを握っているのも時代にぴったりで、ストーリーがよく出来ていて違和感なしに読み進めるはずです。
書名のインビジブル(見えないもの)というのは国民を見捨てた国家か、見捨てられた庶民か、あるいはほかの何かか、いずれにしてもそこに著者の怒りが感じられて、引き込まれました。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(150)-改正食料・農業・農村基本法(36)-2025年7月12日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(67)【防除学習帖】第306回2025年7月12日
-
農薬の正しい使い方(40)【今さら聞けない営農情報】第306回2025年7月12日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県下全域で多発のおそれ 茨城県2025年7月11日
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 新潟県2025年7月11日
-
【注意報】果樹に大型カメムシ類 果実被害多発のおそれ 北海道2025年7月11日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 福島県2025年7月11日
-
【注意報】おうとう褐色せん孔病 県下全域で多発のおそれ 山形県2025年7月11日
-
【第46回農協人文化賞】出会いの大切さ確信 共済事業部門・全国共済農協連静岡県本部会長 鈴木政成氏2025年7月11日
-
【第46回農協人文化賞】農協運動 LAが原点 共済事業部門・千葉県・山武郡市農協常務 鈴木憲氏2025年7月11日
-
政府備蓄米 全農の出荷済数量 80%2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA加賀(石川) 道田肇氏(6/21就任) ふるさとの食と農を守る2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA新みやぎ(宮城) 小野寺克己氏(6/27就任) 米価急落防ぐのは国の責任2025年7月11日
-
(443)矛盾撞着:ローカル食材のグローバル・ブランディング【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月11日
-
【2025国際協同組合年】協同組合の父 賀川豊彦とSDGs 連続シンポ第4回第二部2025年7月11日
-
米で5年間の事前契約を導入したJA常総ひかり 令和7年産米の10%強、集荷も前年比10%増に JA全農が視察会2025年7月11日
-
旬の味求め メロン直売所大盛況 JA鶴岡2025年7月11日
-
腐植酸苦土肥料「アヅミン」、JAタウンで家庭菜園向け小袋サイズを販売開始 デンカ2025年7月11日
-
農業・漁業の人手不足解消へ 夏休み「一次産業 おてつたび特集」開始2025年7月11日
-
政府備蓄米 全国のホームセンター「ムサシ」「ビバホーム」で12日から販売開始2025年7月11日