【浅野純次・読書の楽しみ】第57回2020年12月14日
◎内田樹『コモンの再生』(文藝春秋、1595円)
過去数年、雑誌に連載されてきたエッセイ集なので少し古いものもありますが、内容は政治、経済、社会、国際など多岐にわたっていて、人生相談みたいなものまであります。政治では共謀罪や改憲論など安倍前首相に対する厳しい批評が随所に出てきます。
東京論では「不適切な」人ばかり知事に選ばれ自治が底抜けになっているのは、都の規模が大きすぎて都民が「大風呂敷を広げる候補」ばかり選ぶためとしています。とくに石原、猪瀬両氏に厳しく、舛添氏ではむしろメディアを糾弾しているのは正解でしょう。
「令和の日本が後進国に転落する可能性」という話では、十分にありうると悲観的ですが、「暮らしやすさでは世界有数の国」であり続けるという「後退戦」を提唱していて絶望はしていないのだとか。
気楽に読めますが、テーマごとにヒントをもらった気持ちで自分で考えてみることにするのも一法でしょう。
著者がいちばん言いたいのはコモン(共有地)の思想です。金儲けに夢中になり村落共同体が消滅してしまったが、集団的に大事にしてきたものや相互扶助の仕組みを再生させよう、ということです。農業を基盤に共同体の再生が図れるか。この部分、記述は短いですが大事な論点です。
◎川内イオ『1キロ100万円の塩をつくる』(ポプラ新書、990円)
「1キロ1万円」の間違いではないかと思いますが、「常識を超えて『おいしい』を生み出す10人」という副題を見れば、納得する人もいるでしょう。おいしい何かのためにはおカネを惜しまない、というのが今の世の中だからです。
著者は「稀人(まれびと)ハンター」を自称して、「規格外の稀な人」がいると知るとどこへでも出かけていって取材することをなりわいにしている由。
そのようにして日本中を旅して、格別の塩、パン、チーズ、おはぎ、ジェラート、ピーナッツバター、お茶、コーラ、ワイン、ラム酒をつくる人たちを報告したのが本書です。
みんな個性的に工夫を重ねています。そしてマーケティングも見事です。もちろん口コミで自然に知られるようになるものもあり、ネットで瞬く間に広がるケースもあります。
伝統も大事ですが、常識を突き破る工夫も劣らず大事です。現代のそんな成功例を知るのも悪くないのでは。ちなみに塩は高知県田野町の「田野屋塩二郎」でつくられています。
◎星野保『菌世界紀行』(岩波現代文庫、946円)
菌類というと何を連想しますか。辞書を引くとキノコ、カビ、酵母などの変形菌、真菌類とあります。本書のテーマであるキノコはマツタケやシイタケとはまるで違う、雪や氷の下に住む雪腐(ゆきぐされ)病菌でもちろん食べられません。
ノルウェー、グリーンランド、ロシア、南極など、科学者の宿命で星野センセイは必死になって菌採取の旅に出かけるのですが、それがまさに珍(菌)道中なのです。
現地の人たちとの交流、よもやでない失敗、酒(ウオツカ)飲みすぎが引き起こす波乱の連続。中等、いえ、上等なユーモア乱発で肝心の菌の話が頭にきちんと残らないのはちょっと困りますが、苦笑、失笑は数知れず。
北国など積雪地帯の方々ならずとも、結構、楽しめるはずです。菌のことをもろに知りたければ同じ星野センセイの『菌は語る』(春秋社)を、植村直己的な世界を楽しむなら本書を。饒舌さでは甲乙つけがたいところです。
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