戦後のDDT【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第131回2021年1月7日
感染症、新年になっても毎日何度も聞かされるが、ご存知のように、十数年前まで私たちはそれを伝染病と呼んでいた。その伝染病のなかに発疹チフスという病気があり、シラミによって媒介される恐ろしい病気だということは子どもも知っていた。といっても、今はかなり高齢の方しかわからないだろう。シラミは、同様に私たちを苦しめたノミとともに、1960年代以降ほとんど見られなくなったからである。

でもノミ、シラミの名前は若い人も聞いたことがあるのではなかろうか。
そうである、蚊と同じように人間の血を吸って皮膚にかゆみを生じさせる悪い奴である。ただし蚊のように飛んできて刺すのではなく、ノミはピョンピョン跳ねながら、シラミはのそのそ這い歩いてきて肌着や布団に忍び込み、人間の膚に細長い口吻を刺して血を吸うのである。刺されたからといって痛みも何も感じない。だからわからない。吸い終わってしばらくするとすさまじくかゆくなってくる。人間が眠っているときなどはゆっくりたっぷり吸えるので、夜が彼らの活動最盛期、かゆくて目をさましてしまう。何ヶ所もやられているのだからたまらない。もう泣きたくなる(蚊もそうなのだが、夜は蚊帳を吊って防げるので安眠できるのでノミ、シラミほどではない)、今のようにかゆみ止めの薬があるわけでもない、背中などやられた自分でかけないので、子どもたちなどは泣きながら親などにかいてもらっていたものだった。
もちろんそんなことにならないように見つけ次第捕まえて潰して殺す。しかしすべて捕まえるのは難しい。ともに1ミリ以下の小ささで見つけにくく、ノミの場合は素早く高くピョンピョン飛び跳ねるので逃げ足は早いし、シラミは下着の縫い目や頭髪などに忍びこんで身を隠しているからである。
何か薬でやっつけたらいいではないかといってもそんなものはない。ノミ取り粉を売っていたが、ほとんど効き目はなかった。
このように悩まされたものだったが、かゆさだけではなかった、シラミの場合は発疹チフスを媒介した。
発疹チフス、かつては腸チフスと並んでだれでも知っている有名な伝染病だったのだが、リケッチアと呼ばれる細菌によって引き起こされ、高熱、頭痛、嘔吐、発疹等々のあと死にいたる病気で、戦争、貧困、飢餓などの社会情勢が悪化した状況下で多く発生するということで、世界的に有名な病気だった。第二次大戦後も同様、日本でも大流行した。
敗戦直後、何の映画を見に行ったときなのか覚えていない、映画が始まる前に映されるニュース映画(テレビのない時代、新聞で知った記事内容が映像で見られるので、たとえ時期遅れであっても、これを見るのは楽しみだった)で、外地からの引揚者がアメリカ兵によって「DDT」という薬を頭から振り掛けられ、全身真っ白になっている光景が映された。それを見たとき、何か屈辱的に感じられていやな気持ちになったものだったが、これは当時流行っていた発疹チフスの媒介者であるシラミを退治する薬なのたとのことだった。
それから2~3ヶ月後だったと思う。当時小学3年だった妹が頭を真っ白にして学校から帰ってきた。頭髪につくシラミを退治するため女の子は全員かけられたそうで、坊主頭だった私たち男子は免除れたようだ。
小麦粉のように白くサラサラしたこのDDT、本当に効き目があった。振りかけるとあっという間にノミ、シラミは死んだ。それだけではない、蚊やハエ、蛆虫も死んだ。あらゆる虫に効き目があった。これには驚いた、人類誕生以来苦しめられてきた虫害から解放される展望が開けできたのである(このころは人体や他の動植物に対する影響などはまったく考えなかった)。
やがてDDTが市販されるようになると、各家庭で購入して駆除するようになった。このDDTよりもさらに強力だといわれるBHCという薬も手に入るようになったころ、1950年ころからはなかろうか、農作物の虫害を防ぐ農薬としても使うようになった。効き目は抜群、まさに革命的だった。
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