無責任な緊急事態宣言【森島 賢・正義派の農政論】2021年1月12日
政府は、ようやく緊急事態宣言を出した。
コロナの蔓延という緊急事態に陥ったから、今後30日間の外出と営業を自粛せよ、と国民に要求している。その一方で、政府は何をしようというのか、宣言していない。行動を自粛すれば補償金を払う、というだけである。しかも、僅かな補償金である。
政府がなすべきことは、コロナの蔓延を止めるために、今後30日間、全力を投入することである。国民に行動の自粛を求め、そのために僅かな補償金を払えば済む、というものではない。
それは、コロナの蔓延を許し緊急事態に陥らせた、いまのコロナ対策の失敗を国民に謝り、検査体制と、隔離・治療体制を、根本的に見直すことである。そのことを、国民に対して明確に誓うことである。
宣言は、つぎのように言うべきだった。「政府は、あらゆる英知を集め、全力を傾けてコロナに立ち向かいます。だから、国民の皆さんも行動を自粛してください。政府と心を合わせて、コロナを克服しましょう」というべきだった。
しかし、そうではなかった。国民に行動の自粛を要求するだけだった。それがコロナの蔓延を防ぐ唯1つの方法だ、といった。それは専門家の誰もが言っていることだ、ともいった。そうして、30日間で蔓延が防げなかったときは、国民が協力しなかったからだといって、その責任を国民に負わせ、専門家に負わせようとしている。
◇
コロナの市中感染の蔓延を止める方法は、市中から感染者を減らし、感染源を減らすことである。
だが政府の方法は、そうではない。市中の感染者を放置しておいて、感染者が誰かも分からずに、感染者に近寄るな、というものである。これでは、感染者を減らすことはできない。
この考えは、市中に感染者を放置しておいて、集団免疫の獲得を狙っているのかもしれない。最も安上がりだからである。
しかし、そのためには、国民の60%以上が感染して、免疫を持つようにならねばならぬという。不確かな資料ではあるが、いまの日本の感染率は、1%程度のようだ。だから、1%から60%になるまでの長い間、国民はコロナ禍に苛まれる。そんなことはできない。スエーデンは、この方法で無残な失敗をした。日本も同じ失敗をする可能性は高い。
いま英国では、感染力の強い変異種のコロナが猛威をふるっている。日本にも、やがてこれが襲ってくるだろう。こうした中で、ロンドン市長が、いまは制御不能な重大事故(Major Incident)だ、と宣言した。これは、緊急事態宣言よりも強い宣言のようだ。こうした危機感は、日本にはない。
◇
日本のばあい、Googleの予測をみると、今後28日の間に新規の感染者が27万9010人、新規の死者が3947人でてくる、と予測している。これは、コロナ発生以後の約1年間の感染者合計の28万4728人、死者合計の4043人と、ほぼ同じ数である。いまは、それ程の危機の中にある。だが、緊迫した危機感はない。
ワクチンの接種が行きわたるまで、じっと息を詰めていろ、というのかも知れない。だが、それまでに、これほどの惨事が起きる、という予測である。
いったい、日本はどうすればいいのか。
◇
感染の蔓延を防ぐには、古典的な方法と揶揄されるかもしれないが、徹底した検査を行うしかない。そうして感染者を市中から隔離するしかない。
しかし、政府はそれをしない。理由は、希望する全ての国民を検査するだけの体制がない、というものである。だから、検査を極端に制限している。
だが、それではだめだ。検査体制を抜本的に改善し、グループ法で検査すれば、全国民の検査は充分に可能である。
つまり政府は、旧来の検査体制を墨守するだけで、グループ法による検査を認めるなど、抜本的な改革をする意志がない。ことにこんどのCOVID―19に多い無症状や軽症の感染者は、市中に放置されている。こうして緊急事態を招いている。
いったい、検査体制のために感染者がいるのか、感染者のために検査体制があるのか。
◇
隔離・治療の体制にも同様な問題がある。医療が崩壊するという理由で、全ての感染者を隔離・治療しないで、無症状や軽症の感染者を自宅で療養させている。そうして、同居する家族に感染させている。いまは、家庭内感染が最大の感染源になっている。
このように、ここでも主客転倒が、まかり通っている。旧来の隔離・治療体制を維持するために感染者がいるのではない。感染者のために隔離・治療の体制があるのである。
体制が不充分なら、不充分な隔離・治療を行うのではなく、体制を拡大し、充実すべきである。それは、充分に可能だし、緊急事態のいま、可能にしなければならない。
私立の病院が多いので、それはできないという。それなら、仮設の施設でもいい。いまは、見栄を張る余裕はない。公立の隔離・治療施設を大量に、かつ早急につくればいい。
また、私立病院だから、医師や看護師などの医療要員の配置換えを命令できないという。だが、緊急事態なのだから、厚遇して、コロナが終息するまで一時的な配置換えを要請したらどうか。
◇
最近の報道をみると、医学科や看護学科の学生だけでなく、介護学科や福祉学科の学生までも、隔離・治療の第一線で手伝おうとする動きがあるようだ。
政府は、旧来の体制を墨守するのではなく、こうした若い情熱で体制を改革しようとする動きに対して、制度的および財政的に充分な援助をしなければならない。そして、それに触発されて、緊急事態に際しての、体制の抜本的な改革を行わねばならない。
(2021.01.12)
(前回 夢のコロナ絶滅策)
(前々回 コロナ:あと半年の我慢か)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
第21回イタリア外国人記者協会グルメグループ(Gruppo del Gusto)賞授賞式【イタリア通信】2025年7月19日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】「政見放送の中に溢れる排外主義の空恐ろしさ」2025年7月18日
-
【特殊報】クビアカツヤカミキリ 県内で初めて確認 滋賀県2025年7月18日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2025年7月18日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 兵庫県2025年7月18日
-
『令和の米騒動』とその狙い 一般財団法人食料安全保障推進財団専務理事 久保田治己氏2025年7月18日
-
主食用10万ha増 過去5年で最大に 飼料用米は半減 水田作付意向6月末2025年7月18日
-
全農 備蓄米の出荷済数量84% 7月17日現在2025年7月18日
-
令和6年度JA共済優績LA 総合優績・特別・通算の表彰対象者 JA共済連2025年7月18日
-
「農山漁村」インパクト創出ソリューション選定 マッチング希望の自治体を募集 農水省2025年7月18日
-
(444)農業機械の「スマホ化」が引き起こす懸念【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月18日
-
【サステナ防除のすすめ2025】水稲害虫の防ぎ方「育苗箱処理と兼ねて」2025年7月18日
-
最新農機と実演を一堂に 農機展「パワフルアグリフェア」開催 JAグループ栃木2025年7月18日
-
倉敷アイビースクエアとコラボ ビアガーデンで県産夏野菜と桃太郎トマトのフェア JA全農おかやま2025年7月18日
-
「田んぼのがっこう」2025年度おむすびレンジャー茨城町会場を開催 いばらきコープとJA全農いばらき2025年7月18日
-
全国和牛能力共進会で内閣総理大臣賞を目指す 大分県推進協議会が総会 JA全農おおいた2025年7月18日
-
新潟市内の小学校と保育園でスイカの食育出前授業 JA新潟かがやきなど2025年7月18日
-
令和7年度「愛情福島」夏秋青果物販売対策会議を開催 JA全農福島2025年7月18日
-
「国産ももフェア」全農直営飲食店舗で18日から開催 JA全農2025年7月18日
-
果樹営農指導担当者情報交換会を開催 三重県園芸振興協会2025年7月18日