(217)エンディング・ノート【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年2月5日
コロナの影響だけでなく、自分の年齢が一定レベルに達し、さらに身近に高齢者が多くなるといろいろと考えることが出てきます。年明け以来継続していた仕事の山が少しなだらかになったので、「エンディング・ノート」について調べてみました。
英語の「ending note」は日本語ではどうも「事前指示書」と訳すようだ。固い。エンドもノートも既に外来語として現代日本語に入り込んでいるため、「事前指示書」よりは「エンディング・ノート」としての方が柔らかく、響きもよく、馴染み易い。Webの辞書には以下のようなわかりやすい説明がある。
「自分が死んだ場合や、病気に罹り意思疎通が困難になった場合などを想定して、あらかじめ親族などへの指示、あるいは自分史などを書きためておく文書のこと。エンディング・ノートでは、自分の葬儀で望む方式や、財産分与に関する言及、残されたペットの処置などのような事柄について書かれる。遺族などに対応方針を伝える手段として利用される。ただし、遺言とは異なり、法的拘束力は持たない。」(Weblio辞書:新語時事用語辞典)
なるほど、高齢社会ではこうしたものが本当に必要になる可能性が高い。とくにコロナのような感染症の影響で、年齢に関係なくあっという間に亡くなる人が増えてくると、残された家族はたまらない。故人のアタマの中にあり、毎日の生活を回していた細々とした、しかし、非常に重要な各種情報へのアクセスが一瞬にして遮断されるからだ。
極端な話、携帯電話の中身や銀行預金、さらにネットで様々な業務をこなしていた場合には、携帯やパソコンへのログインから始まり、使用しているメールアドレスや個別のパスワードなど、確認事項が膨大になる。それら全ての情報を残された遺族が確認していくのは、それこそ時間的にも精神的にも非常に手間がかかる。
筆者の両親達の世代(大正から昭和初期生まれ)はインターネットを使用していたとしても限られた範囲内に留まることが多いが、団塊の世代以降の一人ひとりがもつ個別のネット関連情報、具体的にはメールアドレスとログイン・パスワードは、平均していくつくらいになるのだろうか。筆者も数えたことさえないし、正直なところ想像もつかない。
銀行の預金口座や使用している印鑑、生命保険証書や土地の権利証書など比較的限られた情報だけでなく、こうしたネット関連の細かい情報は整理が非常にやっかいである。
そのようなことを考えつつ、ネットで提供されていた無料のエンディング・ノートのサンプルを覗くと、いずれもA4判で30頁くらいある。人間一人の情報をたかが30頁に書き込むことがいかに無謀なことであるかと思うと同時に、項目だけを見ても、これを例えば、死期が近づいた人や病床にいる人が全て書き込めるとはとても思えない。健康な方は一度ぜひ試してみたら良いと思う。恐らく丸1日では終わらないはずだ。
それに、例えば、「財産の記録」のようなところの記入項目を見ると、金融機関名、預金の種類(普通・定期・その他)、金額、支店名・電話・口座番号、だけが当然のように書いてあるが、本当に必要なのは、預金通帳や銀行印、そしてキャッシュカードの保管場所と暗証番号なのではないだろうかと思うこと、しきりである。
最後の方に、申し訳程度にインターネット・バンキングも忘れずに記入云々があるが、これとてログインできなければ話にならない。IDとパスワードをどこに記入したら良いのだろうか。忘れた時の「特別な質問」の答えなどどうしたら良いのだろう。震える手と老眼で小文字のアルファベットを正確に記入できるとも思えない。
所詮、これは無料テンプレートなのだ。恐らく、この手のものは、少しずつ書きためていってこそ、それなりにまとまるのであろう。それにしても面倒な時代になったものである。
* * *
先日、子供達から、私だけが知っているここで述べたような各種情報を全く知らないからどこかにまとめておいて欲しい...と言われました。そういうトシになったのかと思うと同時に、まとめるといっても、そんな時間あるかいな...、と思いつつ、ふと「エンディング・ノート」を思い出した次第です。「備えあれば憂いなし」とは言うものの、多くの人は備える余裕が無いからこそ、こうしたことわざが出来たのかもしれませんね。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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