(236)「菖蒲」と「菖蒲」、「石菖」と「庭石菖」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年6月18日
いよいよ梅雨入りです。いつもの学内散歩でまとまった庭石菖(ニワゼキショウ)の花を見つけました。菖蒲(ショウブ)と菖蒲(アヤメ)はいずれも漢字では同じです。そして石菖(セキショウ)、さらに庭石菖となると…、少し調べてみました。
小学生の頃であったか、漢字テスト問題で「菖蒲」の読み方を出題されたことがある。「ショウブ」も「アヤメ」もどちらも正解だと聞いて得をした気分になったが、目の前に実際にモノを出されてもわからなかったと思う。
日本では5月5日の端午の節句に菖蒲湯に入る習慣があったが、今ではどのくらいの家庭で行われているのだろうか。はるか昔、内風呂が無かった頃は銭湯に行ったものだが、大きな浴槽に大量の菖蒲が浮かんでいたことを覚えている。
さて、筆者は植物学者ではないため、以下はかなり大雑把な言い方になる。かつて植物の分類にはエングラー体系というものが存在した。これはアドルフ・エングラーという植物学者が19世紀に発表したものである。その後、何度かの改定を経て、1950~60年代には新エングラー体系というものが出来た。
筆者達が小中学生の頃の理科は、恐らくこの新エングラー体系に基づいている。「菖蒲」に関する問題は、漢字の読み方とともに「科」を問われた。こちらは中学生の頃かもしれない。分類方法はその後、1980年代にはアーサー・クロンキストによるクロンキスト体系が出た。この頃にはもう筆者は植物分類からは遠く離れた世界にいた。
簡単に言えば当時、「菖蒲(アヤメ)」はアヤメ科だが、「菖蒲(ショウブ)」はサトイモ科の植物に分類されていた。試験の「ひっかけ問題」のようなものだ。今でもネットでは「ショウブはサトイモ科」との記述を見る。当時はこれが正解であったし、そういう分類として学んだ人には当然であろう。
だが、1990年代以降、DNA解析を用いた植物の分子系統学が大きく進歩する中で、APG体系(被子植物系統グループ:Angiosperm Phylogeny Group)という分類方法が登場する。先のエングラーによる分類体系とはアプローチが異なり、植物のゲノム解析を実施して遺伝子レベルでの分類を行う方法である。
この中で、菖蒲(ショウブ)はオモダカ目サトイモ科ではなく、1つ上の段階で別れたいわばオモダカ目の兄弟ということがわかり、新たに「ショウブ目」が作られることとなった。したがって、現在の「菖蒲(ショウブ)」はショウブ目ショウブ科ショウブ種の植物である。
ところで、菖蒲(ショウブ)によく似た植物に石菖(セキショウ)がある。こちらはショウブ目ショウブ科ショウブ属までが同じで、種のレベルでセキショウとなる。当たり前のことだが、サトイモ科の植物は地下に芋(塊茎)を作るが、菖蒲や石菖は芋を作らずに根を伸ばすだけである。その意味では、「菖蒲(ショウブ)」はサトイモ科と言われても、「え~、何で?」や「ふ~ん」というレベルであったのかもしれない。当時の理科の先生の苦労がわかる。
「菖蒲(ショウブ)」の話はこのくらいにして「菖蒲(アヤメ)」の話をすると、こちらはキジカクシ目アヤメ科の植物である。家系図的に言えば、両親、祖父母、曾祖父母、高祖父母、となるが、いわば4代ほど遡るところでショウブ目と別れたようだ(間違っているかもしれない)。そして、ようやくたどり着いたのが、今回の対象、庭石菖である。
APG体系によれば、キジカクシ目アヤメ科ニワゼキショウ属、のようだが、名称に「石菖」が付いているためショウブ科と思いかねない。だが、こちらは小さな可愛い花が咲く。手元の図鑑はかなり古いのでwikipediaをもとに整理すると以下のような形になる。

* *
動植物の分類作業は非常に大変です。「菖蒲(ショウブ)」はサトイモ科というトリビアが使えなくなった後は、石菖はショウブ科、庭石菖はアヤメ科、ということでしょうか。もっとも花の方はそんな人間の分類など関係なく平和に咲いています。世の中、こういう事が多いのかもしれません。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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