生産者補助金(直接支払い)は消費者補助金【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2021年10月14日
消費者が食料品を買い求めやすくする補助金は農産物需要を顕在化して生産者も助けることを述べてきたが、一方で、生産者への直接支払いの補助金は消費者を助ける補助金だという見方もできる。この点からも、生産サイドと消費サイドが支え合っている構図が見えてくる。
カナダ農務省の説明に納得
まず、農産物の輸出大国でもあるカナダは農業保護大国でもあることは認識してもらいたい(詳しくは拙著『農業消滅』、138ページ)。
筆者が30年近く前にカナダ政府を訪問したとき、農業省のプライス課長が話してくれた説明にはなるほどと思うことがいくつもあった。そのひとつは、米国もカナダもWTO(世界貿易機関)に農業保護額を「過少申告」しているという話だ。これは今回は割愛する。
もうひとつが今回の主題である。それは、農家への直接支払いというのは生産者のための補助金ではなく、消費者補助金なのだという話だ。なぜか。農産物が製造業のようにコスト見合いで価格を決めると、人の命にかかわる必需財が高くて買えない人が出るのは避けなくてはならないから、それなりに安く提供してもらうために補助金が必要になる。これは消費者を助けるための補助金を生産者に払っているわけだから、消費者はちゃんと理解して払わなければいけないのだという論理である(拙著『農業消滅』、188ページ)。
フランスの具体例
こうした補助金は欧米では顕著である。米国については、日本のコメの現状で言うと、生産費(目標価格)15,000円と市場価格9,000と円の差額の100%を政府が補填(ほてん)する「不足払い」がある。フランスについては、石井圭一教授が作成した資料が如実に物語る。訪米の主食といえる麦作と酪農の実態である。まず、130haとかなり大規模な麦作経営の収支を総括すると、
販売収入 124,756 ユーロ
費用 141,279
差し引き ▲16,523
補助金 28,725
所得 12,202
所得に対する補助金率28,725/12,202=235%
つまり、市場の販売収入では費用がまかなえない状態になっているが、それを補助金で埋めて、その残りが所得になっている。
酪農についても同様で、搾乳牛75頭の酪農経営の収支を総括すると、
販売収入 246,320 ユーロ
費用 257,001
差し引き ▲10,681
補助金 35,780
所得 25,100
所得に対する補助金率35,780/25,100=143%
つまり、市場の販売収入では費用がまかなえない状態になっているが、それを補助金で埋めて、その残りが所得になっている。
さらに最低価格による買い上げもプラス
そして、忘れてならないのは、各国では、穀物と乳製品について、再生産に支障をきたさないようにかるためのギリギリの水準を「介入価格」(EUの穀物、乳製品)、「融資単価」(米国の穀物)、「支持価格」(カナダの乳製品)などの名称で定めて、それを下回ったら、政府が柔軟に買い上げて在庫をもつ仕組みが維持されている。コメの備蓄用120万トンにかぎる買い上げのみしか断固やらないという日本は「特異な存在である」ことを改めて認識しておきたい。岸田総理は15万トンを人道支援に活用するとは表明したが、抜本的な政策体系の再構築が必要と思われる。


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