(254)需要の創造【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年10月22日
先週は過去500年の流れを世界史のような形で見てみました。今週は、似たような振り返りをエネルギーで実施してみましょう。米国の独立は1776年です。今から250年近く前ですので、500年の約半分となります。
ギリシャ・ローマの時代と比較すればはるかに現代に近い18世紀、米国が独立した頃、石油はおろか石炭ですらまともに使用されていなかったというと意外に思うかもしれない。もちろん、歴史によれば古代エジプトの頃から原油は様々な形(例えば、ミイラの防腐剤など)で使用されていたことなどが知られている。
だが、現代社会のような感覚で石油が使用され始めたのはずっと新しい。石炭も似たようなものかもしれない。人々にとって「燃料」とは木材の時代が有史以来、相当長く続いたのである。そんなことを考えながらWebを見ていたところ、良い資料に巡り合った。
1776-2020年までの米国の原料別エネルギー消費を見やすいグラフにしたものである。

こうしたグラフを元にすると何時間でも話が出来る気がする。木材から石炭へ、そして石油、天然ガスから再生可能燃料へ。このグラフで1850年のところを見ると、木材が9割、石炭が1割しかない。米国のペンシルベニア州でドレイク油田が発見されたのが1859年である。その後、石油産業は急速に発展するが、それでも1875年のエネルギー消費の1%に満たない。1900年時点でも2.4%である。初期のガソリンなど使い途がなく捨てていたというから世の中はわからない。
ヘンリー・フォードが有名なT型フォードを発売したのが1908年である。この車は1927年までに1500万台以上売れた大ヒット商品である。安価なガソリンの結果かどうか、1925年、エネルギー消費に占める石油の割合は約2割に達している。それでも当時はまだ石炭が全体の3分の2を占めていた訳だ。
第2次世界大戦の歴史を紐解くと、石油が無くて限界まで苦労したわが国とは異なり、余りに余った石油をどう使うか苦労した連合国の姿が浮かび上がる。何とも言えない。
戦後、1950年の米国ではエネルギー消費に占める石油は4割となり、石炭の36%と首位が交代し、1975年の比率は46%に達している。まさに石油がエネルギーの中心の時代である。
だが、我々は1973年と1979年に2度のオイル・ショックを知っている。その頃から、将来のエネルギーを何で賄うかの議論があちこちでなされた。代替エネルギーとして天然ガスが注目された。既に1975年当時、天然ガスの比率は28%と石炭の18%を10ポイントも上回っていた。また、わずかだが原子力が伸び始めてきた。
2000年頃には原子力が8%となり、エネルギー消費の1割が目前となってきた。どこかビールのシェア争いを彷彿させる。少しずつ再生可能エネルギーが登場し始めたのもこの頃である。
そして、2020年、石油は全体の34.7%と首位を占めているが、2位の天然ガスも34.0%である。石炭は9.9%、原子力は8.9%だが、再生可能燃料が7.4%と着実に増加している。もちろんトウモロコシから作るエタノールが中心である。
筆者は長い間、米国産トウモロコシを飼料原料として調達する仕事に従事してきたが、現在の米国では、トウモロコシの国内需要の54%
を俗にFSIと呼ばれる食品・種子・工業用需要が占めている。FSIはFood, Seed, Industrial useの略である。そして、このFSIの78%がエタノールとその副産物用である。
以前にも述べたがトウモロコシの米国内需要のうち、飼料用需要は46%の第2位である。つまり米国のトウモロコシ農家は飼料ではなく、エタノールのためにトウモロコシを作っている...というのもあながち間違いではない。
要は、技術革新による生産性向上の結果として増産されたトウモロコシをどう使うか、米国は米国で考え、新たな需要を創造してきた...ということであろう。だから、今でも農家は思い切りトウモロコシを作っている。
* *
場所と品目、そして固定観念を変えれば、本当の問題は需要を創造できるかどうか、全てはここに行きつくことがわかるのではないでしょうか。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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