「なんちゃって国会」が導く先【小松泰信・地方の眼力】2022年4月27日
岸田文雄首相は4月26日、記者会見を開き、物価高騰を受け政府が同日閣議決定した「総合緊急対策」について説明した。報道によれば、要点は、ガソリン価格抑制や低所得世帯の子どもへの1人5万円給付など。2022年度予算の予備費を使い、補正予算でその穴埋めをする「異例の手法」とのこと。
予算は政府・与党の財布ではない
北海道新聞(4月27日付)の社説は、「参院選をにらんだばらまき色が拭えない。6兆円余の国費を投じる割に、場当たり的で効果の疑わしいものが目立つ」と手厳しい。
まず目玉とされる「燃油の価格抑制を目指す補助金制度」を俎上にあげる。
食品を含む幅広い品目で物価高が加速し、かつ長期化も見込まれるなかで、「燃油に限定した価格抑制策がどれだけ家計の痛みを抑え、暮らしの安心につながるか疑問だ」とし、「大幅な賃上げの促進や税負担軽減などで国民の所得環境を改善する政策」を求めている。
また、「現在の仕組みは富裕層も恩恵に浴せる」ため、「生活に困った人や中小企業に重点を置いた制度設計」の必要性を訴える。
ただし今回の対策に、低所得の子育て世帯に児童1人当たり5万円を給付することが盛り込まれていることには、「物価高で困窮しているのは子育て世帯に限るまい。それに、なぜ5万円なのか。いずれも根拠が判然としない」と疑問を呈する。
さらに、財源の一部に当初予算の予備費が充てられることについても、「国会の議決なく政府が使途を決められる予備費がこのところ多用されているのはゆゆしき事態だ」とする。「予備費の目減り分を補正予算編成で穴埋めする手法を取る」ことを「禁じ手」と断じ、「国会の議決を経て予算を執行する財政民主主義を骨抜きにしかねない」と警鐘を鳴らす。
最後に「追加歳出は補正を組んで国会審議を経るのが大原則だ。政府・与党は、自らに都合の良い財布のように予算を扱ってはならない」と正論で締める。
減税に踏み込まないのはなぜ?
東京新聞(4月27日付)の社説は、「ガソリン価格の抑制」を最優先課題としたうえで、「価格は高止まりしており補助金の効果は限定的といえる。ガソリン税の一部課税停止で価格を抑えるトリガー条項の実施も盛り込むべきではないか」と提言する。
低所得者への給付については、「対策のたびに線引きをめぐる批判が噴出し不公平感が残る」とし、「子どものいない世帯や一人暮らしでも生活に困窮する世帯は多い。首相には、なぜ子育て世帯を優先するのか丁寧な説明を求めたい」とする。
そして、「減税は複雑な財政出動と比べ国民に分かりやすく消費刺激効果も確実に見込める」にもかかわらず、首相が一貫して減税に否定的であることに対して、減税に踏み込まない理由についての説明を強く求めている。
さらに、予備費利用についてふたつの問題点をあげている。
ひとつは、「国会審議を経ずに政府判断で使え、チェックが甘くなる」こと。
もうひとつが、コロナ禍対策で計上されていた予備費の使途変更。「今後、流用が横行しかねない」ことを危惧する。
セーフティーネットとして機能していない社会保障制度
河北新報(4月27日付)の社説は、「現金給付」の問題点に紙幅を割いている。
政府が「この3年間、経済対策を策定するたびに現金のばらまきを必須としてきた」ことは、「社会保障制度がセーフティーネットとして機能していないことを政府自らが認めているに等しい」と正鵠(せいこく)を射る。
「臨時収入はありがたいだろうが、5万円がどれだけ家計を補い、助けになるだろうか疑問だ。財源を握る側の『上から目線』がちらつく。救いを求めている人たちと同じ目線で、窮状を直視する姿勢が欠けていまいか」と指摘し、「低所得者支援は急場しのぎでかわせる課題ではない。制度を抜本的に見直すべきだ」ととどめを刺す。
そして「現金のばらまきは有権者を引き付けるもってこいの策と映るのだろう。2度目の給付は昨年秋の衆院選で、与野党がこぞって公約の目玉に掲げたのもそのためだ」とし、「2カ月後に参院選が控える。ご都合主義に流された旧態依然の悪手に、政治はいつまで頼るつもりだろうか」と慨嘆する。
中国新聞(4月22日付)の社説も、政府が3月、年金生活者への5000円給付を野党からの「ばらまき」批判を受け白紙にしたばかりであることに言及し、この5万円給付に対して「集票目当てとも映る策を懲りずに繰り返すつもりか」と唾棄する。そして、「一時的な給付では効果が限定される。そうではなく、抜本的なセーフティーネット拡充の制度として検討すればいい。安易な現金給付は考え直すべきだ」と訴える。
「今回の物価高は、世界経済が回復基調に乗る中で生じた需給の逼迫(ひっぱく)が要因で、ロシアのウクライナ侵攻が追い打ちを掛けた。そこに急速な円安が加わり、輸入コストを押し上げる」と分析し、政府と日銀に早急な円安対策を求めている。
さらに「非正規労働者や母子家庭は新型コロナウイルス禍で既に深刻な影響を受けており、低所得世帯ほど厳しさが増している」ことから、「小手先ではない、実効性のある支援が必要だ。本来は社会保障制度の中で行われるべきだろう。十分機能しないのなら制度を見直すのが本筋である」とする。
「なんちゃって補正」が教えていること
毎日新聞(4月22日付)には、今回の緊急経済対策の財源を巡る情けない経緯が紹介されている。
自民党が予備費活用にこだわったのは、「補正予算案を編成すれば衆参予算委員会での審議が必要で、参院選前に政権が野党の攻勢にさらされる危険があったため」。自民の高市早苗政調会長は公明の竹内譲政調会長に、「『過去に選挙前に補正予算を組んで勝てたことはない』と、『予算委リスク』を持ち出して説得を試みた」そうだ。
公明側が補正編成にこだわったのは、支持母体の創価学会が「生活者目線」を重視しており、「速やかに本格的な対策を講じないと参院選の結果に直結する」からとのこと。
ある自民党議員は、今回の補正が公明のメンツを保つための「なんちゃって補正だ」と話したそうだ。恥ずべき自嘲発言。
こんな低レベルの駆け引きで緊急経済対策が講じられ、税金が使われ、国の借金「長期債務残高」が1千兆円を超えていく。
この国は、「なんちゃって政治家」による「なんちゃって国会」に導かれて地獄に向かっている。そろそろ、気づこうよ。
「地方の眼力」なめんなよ
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