内憂外患への一票入魂【小松泰信・地方の眼力】2022年6月22日
第26回参院選が公示された。問われるのは、昨秋の衆院選直前に発足した岸田文雄政権の成果とこの国の針路。
内憂外患の四字熟語が適切に情況を語っている。内憂は、賃金が上がらない中での物価高騰や新型コロナウイルスへの対応など。外患は、ロシアのウクライナ侵攻がもたらしている世界的危機へのわが国の対応など。
世界の食料事情は崖っぷち
沖縄タイムス(6月3日付)で中満泉氏(国連事務次長)は、「......欧州の戦争が各国で飢餓を引き起こし、何年も続く可能性があるのだ。食料難はさらなる不安定要因となり、紛争の火種になるだろう。私は30年以上仕事をしてきて、これほど世界が崖っぷちにあるように感じたことはなかった」と、世界が食料危機に直面していることを語り、「......ロシアのウクライナ侵攻以来ますます機能不全に陥った国際協調が、世界の破滅的な危機を防ぐために必要なことが理解できまいか。どの国も一国では到底解決できない問題に、私たち人類は直面している」と、国際協調で飢餓を防がねばならないことを訴えている。
髙村薫氏(作家)も中満氏と同様の危機意識を持っている。
氏は、「サンデー毎日」(7月3日付)で、「農地があっても肥料がなく、世界的な収穫量の減少と買い占めで食糧価格の高騰が止まらない危機は、日本も例外ではない。食糧の安定供給はまさしく安全保障の課題だが、これがすでに厳しくなっている以上、国民としては言葉が踊るばかりの『拡大抑止』より、米や大豆の増産と備蓄の話を聞きたいと思う。あるいは途上国支援や国際協調の話を聞きたいと思う。このままでは日本でも本格的な食糧不足に陥る可能性は十分にあり、そうなれば私たちは生存のためのまったく新しいフェーズに入ることになるが、必要なのは種々の新たな食糧生産やそれに関連した技術開発であって、軍拡競争ではないことだけは確かである」と記している。
生産費高騰に苦しむ農業者の苦しい投票行動
日本農業新聞(6月21日付)は、この参院選に関する同紙農政モニター調査の結果概要を報じた(対象者1,041人、回答者702人、回答者率67.4%)。世界食料危機の足音が鮮明になる中での、農業と農政への課題をみることができる。
まず、生産資材高騰や人件費の上昇が農業経営に及ぼした影響については、「大きな影響がある」60.7%、「やや影響がある」24.6%、「影響はない」3.7%、「分からない」8.4%。影響を受けているとするのが85.3%で、ほとんどの農業者が生産費上昇に直面している。
期待する生産資材高騰対策(二選択可)は、最も多いのが「高騰に対する価格補填」66.7%、これに「農畜産物の値上げの理解促進」42.2%、「国産飼料の増産や国内資源の活用」29.1%が続いている。
岸田政権に期待する農業政策(三選択可)は、やはり「生産資材などの高騰対策」が44.7%ともっとも多い。これに「米政策」36.0%、「生産基盤の強化」28.8%が続いている。
さて、現自公政権の農業政策についての評価であるが、「大いに評価」2.4%、「どちらかといえば評価」30.8%、「どちらかといえば評価しない」42.5%、「まったく評価しない」15.7%。大別すれば、「評価する」33.2%、「評価しない」58.2%で、6割の農業者が「評価しない」とする。
6割にも及ぶ「評価しない」とする人が、その根拠とした農業政策(三選択可)を見ると、最も多いのが「米政策」55.9%。これに「生産資材などの高騰対策」42.2%、「生産基盤の強化」38.7%が続いている。
現政権の農政を決して評価しているわけではないが、頼らざるを得ない苦しい情況を示すのが次の回答結果である。
農政で期待する政党は、「自民党」49.7%、これに「期待する政党はない」26.8%、「立憲民主党」10.4%、「共産党」6.1%が続いている。
そして、参院選の比例区での投票政党は、「自民党」43.7%、これに「決めていない」28.5%、「立憲民主党」11.8%、「共産党」5.3%が続いている。
この結果を同紙は、「6割近くに上る現政権の農政に批判的な声の受け皿に、野党がなりきれていない状況だ」とする。
受け皿になれないのか純粋野党
共同通信社が6月18、19日に行った、参院選の有権者動向を探るために全国電話世論調査(対象は全国の有権者3,013人、回答者は1,240人、回答者率41.2%)も、野党の影が薄くなりつつあることを教えている。
まず「投票において最も重視すること」への問いに対して、「物価高対策・経済政策」が42.0%で最も多い。これに「年金・医療・介護」16.2%、「子育て・少子化対策」10.6%が続く。「外交や安全保障」は8.2%で第4位。「憲法改正」と「地域活性化」はともに3.0%で8位であった。
有権者の最大関心事である「物価高」への岸田文雄首相の対応については、「十分だと思う」14.2%、「十分だとは思わない」79.6%。8割の人が岸田政権の無策ぶりを指摘している。
ところが、「選挙区での投票予定候補者の政党」で、最も多いのが「まだ決めていない」の34.7%。これに「自民党」31.2%、「立憲民主党」7.3%が続いている。ちなみに、純粋野党(立憲民主党、共産党、れいわ新選組、社民党)は12.2%。
「比例代表での投票政党」でも、最も多いのが「まだ決めていない」の34.2%。これに「自民党」27.3%、「日本維新の会」7.7%が続いている。ちなみに、純粋野党(立憲民主党、共産党、れいわ新選組、社民党)は13.3%。
純粋野党に絞っての話だが、「まだ決めていない」とする有権者が全員、純粋野党に投票したとしても5割には届かない。
有権者の「権利と責任」
高知新聞(6月22日付)の社説は、「通常国会では、野党のあり方も問われた。『批判ばかりだ』という批判を意識した立憲民主党は政策提案型路線にかじを切ったが、ほとんど存在感を示せなかった。最終盤の岸田内閣不信任決議案も野党間の足並みはそろわなかった。政権監視という役割を十分に果たせなかった結果が、桜を見る会や日本学術会議の会員任命拒否といった安倍、菅両政権の『負の遺産』に対する追及不足ではなかったか。選挙戦を経て野党勢力がどう変わるかも注目される」と、野党に鞭を入れる。
そして有権者に対しても、「有権者は物言う機会を無駄にせず、権利を行使して政治をコントロールしたい」と、大切な権利を無駄にすることなく、責任を果たすことを求めている。
国民一人一人を危険にさらす内憂外患の数々。その克服や解消の願いを込めて「一票入魂」。
「地方の眼力」なめんなよ
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