重要だった大麦【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第207回2022年7月28日
麦どぶろく、麦ご飯の原料の大麦、これは小麦とともにイネとほぼ同じころ大陸から伝来して栽培が始められたと言われている。この麦類は寒い地帯でもつくれる、水が少ないところでもつくれる、米の裏作としてつくれる(これは東北・北海道では無理だったが)ということから全国的に栽培されてきた。
もちろん難しさはあった。収穫期が梅雨の時期とぶつかるからである。麦は多くの雨に当たると穂の状態のままで発芽するいわゆる「穂発芽」をしてしまい、品質が低下し、さらには食べられなくなってしまうのである。だから、とくに小麦などは梅雨のある日本に適していないとまで言われた。
しかし日本人はこうした困難を克服しつつ麦の生産を発展させてきた。
ご存じのように、日本の大麦には6条オオムギと2条オオムギがある。
6条オオムギには皮麦=カワムギと裸麦=ハダカムギの二種あり、前者のカワムギが一般にオオムギあるいは6条オオムギと呼ばれている。ともに麦ご飯に使われるが、カワムギは現在麦茶の原料として、ハダカムギは麦味噌や焼酎の原料としても使われている。
2条オオムギは明治以降日本に入ってきたもので、ビールや焼酎の原料として用いられ、「ビール麦」と一般に呼ばれている。
この大麦は、戦前から戦後にかけて100万haも栽培されていた。東北でも、岩手、宮城、福島を中心に7~8万ha、畑面積の4分の1に作付されていた。なお、東北ではそのほとんどがカワムギであり、ハダカムギはきわめてわずかしか生産されていない。ハダカムギは適期の幅が狭いので東北の気象条件からして栽培が難しかったからのようで、四国・九州では水田裏作用として栽培がなされていた。
このように大麦はきわめて重要な位置にあったのだが、1960年以降激減した。米の生産が急増して欲しいだけ安く手に入れることができるようになったこと、小麦の輸入でパン等が安く大量に手に入るようになったことから、米の補填的役割をしていた大麦の需要が減少したのである。もちろん家畜の飼料としての需要はある。ところがそれはアメリカなどから大量に輸入されており、その低価格に太刀打ちできない。かくして1973年ころにはかつての10分の1以下にまで減ってしまった。東北などでは大麦の畑を見つけるのが大変という状況にまでなった。
やがて政府は、米の減反に対応して78年から水田への麦の作付を推奨するようになった。それで気象条件からして大麦しかつくれないところでは大麦を水田に栽培した。しかしその価格の低さからしてその作付面積は減らざるを得なかった。
ビール麦についていえば、その需要は戦後激増し、作付面積も大きく伸びたが、これも70年代から大量に輸入されるようになり、減少せざるを得なくなった。そして現在はほぼ壊滅状態になっている。
それでも「ストロー」という言葉だけは残った。
真夏、冷たい飲み物を飲むとき、ストローを使うことがある。ご存じのように、ストロー(straw)とは日本語の「麦わら」である。実際に私たちは1960年ころまで麦わらのストローを使っていた。やがてそれはプラスチック製になり、麦わらは使われなくなったが、その形はまさに昔の麦わらのストローとまったく同じ、それで今もストローと呼ばれているのだろう。
そうなのである、麦わらの中は空洞の筒状になっており、またその表面はきわめて固いので、水を吸い上げるのにちょうどいいし、水を通さないので安心して飲め、まさにストローにぴったりである。それでその昔の子どもたちはこの麦わらのストローでシャボン玉をつくって遊んだりもしたものだった。
この麦わらはストロー、麦わら帽子以外にも、屋根を葺いたり、細工物にしたり、伝統的にさまざまな用途に使われてきた。
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