JAの組織的社会的な活動の「未来」を描こう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2022年11月8日
加齢学が提起する課題はユニバーサルな社会
A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次
今回は、ちょっと大きなテーマで。
ジェロントロジーという言葉を知ったのは、30年ほど前のこと。仕事仲間である証券系のシンクタンクの研究員に、「ジェロントロジーと社会経済の勉強に行かないか、アメリカだけど」と誘われた。そもそも、ジェロントロジーが何かが分からない私。でも、ロサンジェルスの南カリフォルニア大学で1か月弱、学内の講師用宿舎に泊まる短期集中研修と聞かされ、都市と大学名に惹かれて時間と費用を工面した。
ジェロントロジー(Gerontology)は、「加齢学」とか「老年学」と訳されます。南カリフォルニア大学は、大学創立時の1800年代末にジェロントロジー学部が創設されたとか。
ジェロントロジーの研究領域は広く、老化に関する生理学から心理学、医薬、社会、経済、ビジネス、法律、非営利事業など、自然科学と社会科学を統合した学際的研究で、加齢学にクロスする経済、社会、マーケティングの講義を受けました。
最初の講義で気づかされたこと。それは、今後の高齢化社会は、未知なる社会だが、価値ある社会である、ということ。ダメなことをあれこれ想像して考えるよりも、まずは、そこに存在するはずの素晴らしいことは何か、どんな良いことが考えられるか、望ましいことは何か、を考えることだ、という。問題を探して、問題を解決しようとする前に、ポジティブな要素やプラスと考えられる課題に焦点を当てよ、というわけです。
なるほど、当時の日本は、高齢化社会に向かっている、人間は加齢によって身体的な機能の低下、病気にかかるリスクは増し、医療を必要とする人が増える、介護も必要だ、だから、高齢化社会は"弱い社会"であり、"問題ある社会"だとマイナス思考が強かったといえます。その後、年金・医療制度などの見直し、介護保険制度の創設(2000年)はその代表的なものでしょう。
ですが、高齢化社会はそんな弱く、悪い社会ではない。加齢によって、幅広く深い思考力と知恵を持ち、経験も豊富、そんな人たちが多くいる社会だ。いま以上に価値ある社会、質の高い社会が到来する。そのために知恵や技術、産業、文化などの創造に向き合い、そして、ユニバーサル社会への道を具体的に描いていく。30年前、ジェロントロジーを学び、問われた課題でした。
ユニバーサル社会は未来志向でポジティブ、協同社会に連結する
ジェロントロジーの受講で、課題への向き合い方、考え方、データの読み方、関係する分野や知識の援用方法など、その後の仕事に大いに活かすことができ、国際的なコンサルティングチームでの仕事への参加の機会も得られました。
ジェロントロジーは、ポジティブでクリエイティブでアクティブな学問であることを、いまになって感じています。とはいえ、この30年、大切なテーマとして持ち続けてきたのは「ユニバーサル社会の実現」です。
ジェロントロジーの考え方が広がり、1990年代後半から世界的に認識され、重視されたのがユニバーサルデザインです。直訳すると、"普遍的なデザイン"です。トイレなどの男女、障害者、高齢者、妊婦などの表示マークは一例です。世界共通のルール、多様な商品開発、社会変革につながる動きなど、性別、年齢、国籍、宗教、健常者・身障者などにかかわりなく、すべての人々が利用しやすい製品、サービス、空間などのことです。
多機能トイレ、スロープ、優先スペース、ノンステップバス、点字ブロックなど、あげればキリがありません。こうしたユニバーサルデザインには、公平性、自由度、単純性、明確さ、安全性、省体力(無理な姿勢を取ることなく、少ない力で楽に使える)、そして、空間性という7原則があります。それはユニバーサル社会につながります。また、SDGs(持続可能な開発目標)における将来も豊かに暮らし続けられる社会の実現と共通するテーマです。
注意したいのは、バリアフリーの考え方で、生活上の障壁(バリア)を除去すればいいという発想とは違います。障害を直す、ダメなところを改めればいいのではなく、すべての人にとって利用しやすい生活環境や条件、商品・サービスを創造し、デザインするという考え方です。
このユニバーサルデザインの広がりは、ユニバーサル社会の形成を進化させます。ユニバーサルデザインは、手段や方法であり、めざす姿はユニバーサル社会。年齢、性別、障害、文化などの違いにかかわらず、誰もが地域社会の一員として、互いに支え合うなかで、安心・安定した暮らしができ、一人ひとりが持っている能力を最大限に発揮し、元気に活動できる社会をめざすことです。地域で互いに支え合う「共助」や「互助」の社会から、共生の社会へ。
どうでしょうか。こうなると、ユニバーサル社会は。協同組織がめざす社会に重なり合い、仲間の存在のように考えられませんか。少し、話を端折りましたから、分かりにくいかもしれませんが。
直面する事業や経営は、JAにとって重要な問題ですが、これから先の組織のあり様、めざす社会との関係性に思いめぐらすことの大切さを痛感するこの頃です。
遠回りしましたが、30年前のジェロントロジーとの出会いに感謝です。
◇ ◇
本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)よりご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日