(310)ブラジルの小麦輸出から見えるもの【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年12月2日
2022/23年度のブラジルは、年間1億5,200万トンの大豆を生産し、8,950万トンの輸出が見込まれています。同時期の米国が1億1,827万トンの生産で5,566万トンの輸出ですので、ブラジル農業の規模がいかに大きいかがわかります。
ところで、大豆は極めて有名ですが小麦はどうなのでしょうか。実は結構、目端の効く動きを垣間見ることができます。
世界最大の小麦生産国は中国であり、2022/23年度の生産量は1億3,800万トンが見込まれている。年間1億トン以上の小麦生産量をあげる国・地域は中国の他にはEU(1億3,430万トン)と、インド(1億300万トン)しかない。
これに次ぐのがロシア(9,100万トン)であり、次がオーストラリア(3,450万トン)となる。2021/22年度には3,300万トンの小麦を生産したウクライナは直近11月の見通しでは2,050万トンである。
一方、小麦輸出の最大手はロシア(4,200万トン)であり、これにEU(3,500万トン)、オーストラリア(2,700万トン)、カナダ(2,600万トン)などが続く。ここまでブラジルの名前はない。小麦輸出におけるブラジルは正直マイナー・プレイヤーである。
もともとブラジルの小麦生産量はそれほど多くはない。年間500~600万トン程度で推移していた。国内需要が1,000~1,200万トン水準のため、不足分を輸入というのが基本的な需給構造である。その上で、北半球と南半球の季節の違いや、国際情勢の変化などに応じ、50~100万トン程度を、タイミングを見ながら有利な場合には輸出というのが従来の流れであった。
ところがロシアのウクライナ侵攻により、ウクライナからの穀物輸出が影響を受け、ウクライナ産小麦の輸入顧客たちは代替先を見つけざるを得なくなった。
さて、米国農務省によるブラジルの小麦輸出数量は以下のように推移している。
2018/19年度 594千トン
2019/20年度 408千トン
2020/21年度 911千トン
2021/22年度 3,105千トン
2022/23年度 3,500千トン(米国農務省2022年11月見通し)
激増の背景には、いくつかの要因が関係している。
第1に、先に述べたようにウクライナ産小麦の代替ニーズをうまく捉えた点である。サウジアラビアやモロッコ、スーダンなどの他、インドネシアやヴェトナムまでもがブラジル産小麦を輸入している。数量は最大のサウジアラビアでも70万トン程度と少ないが、モロッコ、南アフリカ、スーダン、トルコ、アンゴラなど昨年まではブラジル産小麦と縁が無かったような国々も少量だが輸入している点が興味深い。新規顧客獲得である。
以前にも書いたが地球は丸いため、南米とアフリカ、南米と東南アジアは意外と近いということが日本にいるとわかりにくい。
第2に、アルゼンチンの小麦生産が2022/23年度はどうも良くなさそうだ。2021/2022年度のアルゼンチンは2,215万トンの小麦を生産し、1,765万トンを輸出していたが、2022/23年度は生産量1,550万トン、輸出量は1,000万トンへと激減する見通しだ。この機会を狙い、ブラジルが顧客獲得の反撃を開始したとも考えられる。ブラジルは国内の小麦生産量を過去3年間で400万トン以上伸ばし、2022/23年度は940万トンが見込まれている。国内生産を着々と高め、市場開拓のタイミングを計っていたかのようだ。
さらに、第3として、USドルに対するブラジルの通貨レアルの大幅下落がある。2014-15年当時は1ドル=2.5~3レアルであったが、最近は5~5.5レアル前後で推移している。つまり、ドル建てで見た場合、ブラジル産小麦は割安感が強い状態な訳だ。
もちろん、ブラジルの小麦生産者も輸入の肥料や農薬の国際価格高騰には一定の影響を受けている。だが、輸出により多少は取り戻すことが出来る。そのような訳で、今年から来年にかけては、ブラジル産小麦が恐らくは史上最高の輸出高を記録しそうである。
* *
以上を日本に置き換えてみればイメージしやすいかもしれません。対ドル相場が円安になると輸入価格は上昇しますが、ドルで買う側からすれば割安となります。その影響もあり、外国人観光客が訪れるだけでなく、ゲームや不動産その他が購入されている訳です。
同じ理屈で考えれば、今の日本は農産物輸出には良いタイミングのはずです。さて...。
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