【JCA週報】会津にみる「地域経済と協同組合」(早尻正宏)2023年1月16日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫日本生協連代表会長)が、各都道府県での協同組合間連携の事例や連携・SDGsの勉強会などの内容、そして協同組合研究誌「にじ」に掲載された内容紹介や抜粋などの情報を、協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、本機構の協同組合研究紙「にじ」の最新号である2022年冬号の特集解題「会津にみる『地域経済と協同組合』」です。
会津にみる「地域経済と協同組合」 北海学園大学教授 早尻正宏
地方工業都市の苦境
北海学園大学教授
早尻正宏
日本経済の「失われた30年」は地域経済の一層の苦境を招いた。地方工業都市では大型工場の撤退・縮小が現在進行形で続く。事業基盤を地域に置く協同組合の経営環境は厳しさを増し、長い年月をかけて地域経済に埋め込まれてきた組合事業の持続性が揺らぐ。
地方工業都市の工場再編を巡る2020年代の象徴的な出来事をいくつか挙げよう。
巨大な生産設備を擁する装置産業の一つ、紙・パルプ工業にはペーパーレス化の波が押し寄せている。王子ホールディングス(株)と日本製紙(株)の二大企業グループが複数の大型工場を構える北海道では、日本製紙が2021年8月、新聞用紙の生産拠点である釧路工場の操業を停止し、紙・パルプ事業から撤退した。同年12月には王子グループの王子マテリア(株)が段ボール原紙を生産する名寄工場を閉鎖し、同グループの王子エフテックス(株)の江別工場が紙の原料をつくるパルプ事業から手を引いた。
中国勢の台頭で国際競争が激しさを増す鉄鋼業では、日本製鉄が2020年2月に呉工場(広島県)の閉鎖を発表し、主要設備の高炉全2基が2021年9月末に停止した。工場は2023年9月末に閉じられ、更地となる見込みである。呉市内では関連会社も含めて3,000人規模の雇用が喪失する。瀬戸内有数の臨海工業地帯である呉は地域経済の屋台骨の一つを失う。
1990年代以降、経済のグローバル化が急速に拡大する中で、大手製造業は生産体制の再編を順次進めてきた。上記した大型工場の閉鎖・縮小の動きもその延長線上にある。サプライチェーン(生産から販売に至る供給網)グローバル化と人口減少に伴う国内市場の縮小により、地方工業都市は大型工場が残る地域と去る地域にこれから明確に分岐していくであろう。地方工業都市の苦境は、特定の企業や工場の誘致に寄りかかる地域経済の脆さを浮き彫りにしている。
本特集のテーマ、「地域経済と協同組合」の「地域経済」が想定するのはこうした地方工業都市のそれである。ただ、一口に地方工業都市といっても実態は多様であるため、ここでは「協同組合」の視点から対象を絞りたい。それが、誠に芸のない表現で恐縮だが、「農山村に包まれた地方工業都市」である。こうした地域の経済活動には協同組合の各種事業が深く埋め込まれている。
「農山村に包まれた地方工業都市」の苦境が深まる中で、はたして協同組合はどのような問題意識を持ち、どのような事業に活路を見いだそうとしているのか。
この問いに答えるべく、本特集では具体的な事例地を設定することで、協同組合だけでなく、それと関わりの深い地元事業者にも目を配り、「地域経済と協同組合」を巡る最新の状況をトータルかつリアルに描き出してみたい。
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