【世界を診る・元外交官 東郷和彦氏】トランプ再来の嵐 自国利益に偏重2025年12月25日
就任24時間で戦争を終わらせるとうそぶいた米国のトランプ大統領が就任した2025年。しかし、ウクライナとロシア戦争、ガザへのイスラエルの攻撃は終わらず年を越す見込みだ。世界はどこに向かおうとしているのか、元外交官の東郷和彦氏の「世界を診る」第1回は2025年の世界を概括してもらった。(月に1回掲載)
元外交官-東郷和彦氏
2025年国際政治の最大の焦点は、1月20日に米国大統領に就任したトランプ氏によって引き起こされた。トランプ氏の目標は、МAGA「Make America Great Again=アメリカを再び偉大にする」であり、その主たる方策は、関税を武器として、世界中を相手に、米国が失ってしまった経済利益を取り返すということであったが、同時に、政治・安全保障・外交の分野では、2025年の米国の総合国力に見合った場所を見出し、そこでМAGAを実現するにはどうしたらよいかを探る模索の一年であった。
その基本精神は、1月20日の大統領就任演説において「世界最強の軍隊を築くが、戦争を終わらせ、参戦しないことによって、成功を測る」という方向性に現れていた。同時に地域的には、カナダ、メキシコ、パナマ、ベネズエラなど国境隣接国との関係に力を注いでいることが伺われた。その総括として11月に発表されたのが国家安全保障戦略(NSS)であり、以下のごとき極めて興味深い総括が行われた。
▽冷戦の勝者となった米国は米国の永久的世界支配が続くと思ったが、それは米国の利害に直接かかわる場合のみである(「米国が世界秩序を支えてきた時代は終焉した」の意味)。
▽米国は、他国の宗教、文化、政治制度、等を尊重し、自国の価値を押し付けない(「米国価値観外交の終焉」の意味)。
▽米国は西半球に安定的関係を築き、モンロー主義の「トランプ的適用」を実施する。
▽欧州は文明的自信を喪失し、規制の導入によって窒息しかけ、ウクライナ戦争開始後は、ロシアを生存に対する脅威としかみることができなくなった。
▽他方、ウクライナ戦争の拡大を抑止し、早期にこれを終了させ、ロシアとの戦略関係を再構築することは、米国の核心利益である。
さらに米国報道機関では、NSS起案の過程では、そのビジョンをわかりやすく説明するために、2026年の国際社会では、5大国(「Core Five核心5カ国」)が鍵となるとして「アメリカ・ロシア・中国・インド・日本」をあげたと報道された。世界地図でこの五カ国の位置を眺めることは、極めて興味深い。
このトランプ新ビジョンに対し、ロシア(プーチン大統領2000年~)、中国(習近平共産党総書記2012年~)、インド(モディ首相2014年~)は概ね肯定的に反応したと伝えられる。
これまで世界のリーダー国としての位置を確保してきたにもかかわらず、この「核心5カ国」から排除された欧州諸国は、仏マクロン大統領(2017年~)、フォンデアライアン欧州委員会委員長(2019年~)、英スターマー首相(2024年~)、独メルツ首相(2025年5月~)以下難しいかじ取りをせまられることとなった。
それでは、2026年我が国はどのように動いたのか。日本憲政史上最長の長期安定政権を築いた安倍晋三内閣をうけた、菅義偉、岸田文雄、石破茂各内閣はともに短命に終わり、2025年10月高市早苗内閣が成立した。1999年以来続いていた公明党との連立政権を解消し、日本維新の会との閣外協力という新体制であった。
全体的には親米・保守主義のアジェンダ設定に立ち、それなりに順調な方向性を進み始めたのであるが、11月7日の国会答弁で「台湾有事の際には存立危機事態になり得る」趣旨の答弁を行い、安倍内閣以来とられてきた、台湾有事の事態が発生したときに日本はどう対応するかは、「諸般の状況を考慮しその時点で判断する」という「具体的な答弁を行わない」という一貫した方針と反する対応をした。
その結果、習近平政権の激怒を買い、日中関係は、1972年日中共同声明によって外交関係樹立以、おそらくは最悪の状況を迎え、改善見通しが立たないままに、年を越すこととなった。
この激動の国際情勢の動向と、その中での日本外交のかじ取りにつき、2026年、一つ一つの問題を丁寧に見ていきたい。
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