食糧安保の制度化を【森島 賢・正義派の農政論】2023年1月16日
明けましておめでとうございます。遅まきながら、新年のお慶びを申し上げます。
農政にとって、今年こそ市場原理主義農政から食糧安保農政へ力強く転換する歴史的な第一歩にしようではないか。
岸田文雄首相は、新年のあいさつで、「今、・・・歴史の分岐点を迎えています。」といっている。また、野村哲郎農相は「今年はターニングポイントにしよう」といっている。
だが、首相のあいさつをみると、5,536文字の長文だが、そのなかに、「農」の文字が1つもない。「農業」もないし「農村」もない。つまり、「農」は「歴史の分岐点」に立っていない、という認識である。
このことは、農政をめぐる今の政治状況を、象徴的に示している。農政を歴史的に洞察することがない。せいぜい、目先の状況しか見ていない。
食糧安保の危機は、まさに、ここにある。
このような状況のなかで、昨年から政府は、農政審で農基法の検証を始めた。だが、いまのところ、旧農基法にまで遡った60年間の農政の歴史的な反省がない。
それは、市場原理主義農政だった。口先では食糧安保をいうが、市場原理に従って安い輸入食糧に依存すればいい、という農政だった。
一方、世界の大状況をみると、中米対立のなかでウクライナ紛争が起きたし、地球温暖化を起因とするコロナ禍が起きた。こうした世界史的な激動期に入って、急浮上したのが食糧安保問題である。
そして多くの人たちが、食糧安保は喫緊の国家的課題だ、という認識を持つようになった。
だが首相には、食糧自給率が40%以下という状況が、食糧安保にとって危機的だ、という認識がない。食糧の60%以上を外国に依存していることに対する危機感がない。
首相だけではない。多くの論者も同様である。
◇
何故か。それは、農政が市場原理主義に毒されているからである。市場原理を至高なものとして、食糧安保をそれの下位においているからである。農政議論は、この反省から始めねばならない。
農産物の全てから市場原理を排除せよ、といっているのではない。食糧安保にかかわる農産物と、食糧安保にかかわらない農産物とに分けて考えねばならない。
食糧安保にかかわる食糧について、市場原理主義を否定せよ、といっているのである。野菜や果物は市場原理を採用して、旨くて安価なものを国民にたいして充分に供給するのがいい。だが、穀物や畜産物は違う。もしも穀物や畜産物を充分に供給できなければ、国民の生存にかかわる重大問題になる。だから市場に任せておけない。政治の出番である。これが食糧安保政策である。
◇
いまの食糧安保の議論には、この認識がない。歴史の転換点というのなら、この認識は不可欠である。
いまの議論をみると、目先の生産資材の価格高騰に目を向けるだけである。それは、それとして重要である。農業者は今日も明日も食っていかねばならない。
だが、いまの農政論議をみていると、農業経営にたいするドロ縄式な対策しか考えていない。今春の統一地方選挙のためのバラマキしか考えていない。そのように見える。
いま、歴史的な転換点に立って必要なことは、市場原理主義農政の否定であり、確固とした食糧安保政策の確立である。
ここで重要なことは、口先だけの議論ではない。法律に基づいた恒久的な、せめて20―30年後を見据えた食糧安保制度の確立である。その法的根拠になる法律の制定である。そのための提言が、農政審に期待されている。
(2023.01.16)
(前回 中国非難が続く)
(前々回 中国の穀物爆買いは続く)
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