中国の穀物爆買いは続く【森島 賢・正義派の農政論】2022年12月12日
日本で食糧安保が議論されているさなか、中国の穀物爆買いが続いている。以前は、日本が国際穀物市場で巨大な買い手だった。だが、いまは中国が代わり、日本は中国に「買い負け」している。
国際穀物市場は、市場原理主義の権化のように振る舞っている。売り手は、日本がうるさいことを言えば、日本に売らないで、中国に売ればいい、と考える。
こうした惨めな「買い負け」が進めば、日本は市場から情け容赦なく冷遇されるだろう。
今後、どうなるか。
この問題は、来年の問題だけではないし、再来年の問題だけでもない。10年後、20年後を見据えて考えるべき問題である。
そして、この問題は、10年後、20年の中米競争期を見据えた、日本の食糧安保にとって、重大な国際環境になるだろう。
こうしたなかで、いま与党どうしの自民党と公明党は、中国を「安全保障上の重大な脅威」と位置付けるかどうか、でいがみあっている。

上の図は、中国の穀物爆買いの様相を示したものである。ここでは、米や小麦など禾穀類の穀物だけでなく、菽穀類の大豆も含めた。
この図をみると、10年ほど前の中国の輸入量は、ほとんどゼロだったが、最近では日本の輸入量の6倍ほど輸入するようになった。つまり、穀物市場に、この10年ほどで、日本のような輸入大国が6つ新しく出現したことに相当する。これは、まさしく爆買いというしかない。
今後どうなるか。中国の人口は日本の人口の約10倍だから、まだまだ増えるのではないか。
◇
日本も中国も、東アジアの水田地帯に位置していることを考えたとき、中国も日本と同じ状況になると考えられる。つまり、中国の穀物輸入量は、日本の10倍になるまで増えると考えられる。
何故か。
中国も日本も、輸入した穀物を人間が直接食べているわけではない。その多くを家畜の飼料にして、その家畜の肉や乳を人間が食べている。
ここに東アジアの穀物需要の特徴がある。東アジア以外では、牧草を家畜の飼料にしているが、東アジアでは、穀物を家畜の飼料にしている。
何故そうなったのか。
◇
東アジア以外では、草しか生育できないところがある。しかし、東アジアでは、草しか生育できないところは、ほとんどない。草が生育できるところは、そのほとんどが穀物も生育できる。
だから、東アジアの人たちは、荒れ地などを開墾すると、そこに牧草を作るのではなく、穀物を作る、という選択ができる。そうすれば、次三男も結婚して家庭をもち、幸せに食っていける。
以前は、そのときの技術条件のもとで、東アジアの人たちはそういう選択をした。つまり、土地の人口扶養力の高い土地利用を選択した。
この状況について、神谷慶治先生は、東アジアは西欧の先進国よりも生産力が高い先々進国だった、といったことがある。
◇
このことは、その一方で、東アジアでの畜産の停滞をまねいた。飼料になる牧草を生産できる農地の大部分で穀物を生産したからである。だから牧草を生産する余地がなかったからである。
このことが、東アジアでの肉食忌避の原因になった。日本では、7世紀には肉食禁止令まで作った。これは、動物にたいする憐憫の情という形而上の原因ではない。次三男を幸せにするためである。そのために、牧草生産ではなく、穀物生産を広めた、という形而下の原因だった。
つまり、形而下の原因が、形而上の肉食忌避という規範を作ったのである。この規範を守らせるために、宗教を動員して、肉食を禁忌にまでした。
だが経済が発展すると、この状態に変化が起きた。
◇
経済が発展し、所得が増えると、穀物を直接食べるのではなく、いったん家畜の飼料にして、その肉や乳を食べるようになった。そのほうが美味だからである。
だがしかし、東アジアは昔から飼料にする草はなかった。だから穀物を飼料にするしかない。だが、穀物もそれほど充分にはない。そこで、飼料にするためには穀物を輸入するしかない。
これが、戦後の日本が経済発展したあとに経験していることである。飼料穀物を大量に輸入しているのである。
これと同じことを、中国がいま経験している。今後も続くだろう。そしてその後に、東アジアの国々が続いて経験するだろう。
これを放置すれば、食糧危機はさらに続く。そして、深い傷跡を残すだろう。
日本は、この危機の先頭を走っている。だから、各国に協力を求め、早急にこの危機に対処しなければならない。
(2022.12.12)
(前回 農基法検証部会の課題)
(前々回 食糧安保の俗論を朝日の社説に見る)
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