弛緩した食糧安保論議【森島 賢・正義派の農政論】2023年1月30日
いまの食糧安保論議を聞いていると、なんとも緊張感がない。それは、食糧安保の核心に迫っていないからである。目先きの問題を、表面的に言い合っているだけだからである。
多くの国民は、こうした論議を、食糧安保に名を借りた農業者の救済策としか見ていない。だからといって、非難すべきことではない。しかし、国民の関心は食糧安保に向かない。農業者たちだけでなく、俺たち、私たちも救ってくれよ、という冷ややかな思いなのだろう。それなら、君たちも救済策を要求すればいいのだ。国民の多くは支持するだろう。
食糧安保とは、しかし、農業者の救済を第一の目的にするものではない。国家存亡の危機に備えて、政治が責任をもって、国民の生命の源になる食糧を確保しておくための政策である。
農政審の論議をみても、この危機感が希薄である。問題を周辺へ拡散するだけで、弛緩した論議を続けている。食糧自給率が38%で、危機に耐えられるのか。食糧自給率を上げるために、どんな政策が必要か、そのために、どんな法律を制定すべきか、という核心の議論はない。
食糧安保は、そもそもキナ臭い議論である。硝煙が迫ったときにも、国民を飢えさせないように、政治の責任で、平時から食糧を確保しておくための政策である。それがなければ、国民は餓死するしかない、という政策である。
輸入に依存しておいてもいい、という食糧安保の俗論がある。平時から輸出国と友好関係を築いておけばいい、という食糧安保論である。だが、これは属国根性である。そんな国に国家の独立はない。食糧は第3の武器といわれているのだ。
◇
なぜ、いま食糧安保が議論されているのか。
それは、ウクライナ紛争が原因して、穀物が国際市場で逼迫しているからである。ウクライナの穀倉地帯が戦場になっているからである。それに加えて、同じ原因でエネルギーも逼迫している。
これらは今後、数年間つづくだろう。ウクライナ紛争は、ウクライナとロシアの紛争ではなく、米欧の代理戦争だからである。NATOの東方拡大が原因だからである。
このように、いま、食糧安保は硝煙のさなかにある。
◇
もう1つの食糧安保論に、備蓄を増強しておけばいい、という主張がある。
ここには2つの方法がある。回転備蓄と備蓄後の飼料化である。
回転備蓄では、備蓄後は主食に戻すのだから、国産穀物の生産量は増えない。つまり、穀物自給率は上がらない。だから、これも俗論である。
飼料化は国産飼料が増えるのだから、国内生産の増強され、穀物自給率は上がる。だが、飼料化には穀物輸出国の不満があるだろう。それを乗り切る覚悟があるか。
このように、食糧安保のためには、覚悟を決めて、国内生産を増強するしかないのだ。食糧自給率を上げるしかないのだ。そのことを胆に銘ずべきである。
◇
食糧安保の具体的な政策は何か。
それは政治が、穀物や畜産物を生産していることで、食糧安保に貢献している農業者を対象にして、安心して世間並みの生活ができることを保障する政策である。
それは、食糧安保に貢献していない農業者は対象にしない。そうすることで、食糧安保政策であることを鮮明にする。
こうすれば、大多数の国民が納得し、熱く支持するだろう。
(2023.01.30)
(前回 台湾をウクライナ化する陰謀)
(前々回 食糧安保の制度化を)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】麦類に赤かび病 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2024年4月25日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 鳥取県2024年4月25日
-
【注意報】ウメ、モモ、などに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 和歌山県2024年4月25日
-
【特殊報】キュウリに「キュウリ黄化病」府内で初めて確認 京都府2024年4月25日
-
電動3輪スクーター「EVデリバリー」JA豊橋に導入 ブレイズ2024年4月25日
-
ほ場作業の約9割を自動化するオートコンバイン「YH6135,A7135,A」発売 ヤンマー2024年4月25日
-
むらぐるみの共同労働【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第288回2024年4月25日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「農村は国の本」~焚書として消された丸本彰造著『食糧戰爭』が復刻された2024年4月25日
-
【JA人事】JA水戸(茨城県)新組合長に園部優氏(4月21日)2024年4月25日
-
【人事異動】フジタ(4月1日付)2024年4月25日
-
米麦水分計PB-Rを新発売 ケツト化学2024年4月25日
-
全国の小学校・児童館に横断旗を寄贈「7才の交通安全プロジェクト」こくみん共済 coop2024年4月25日
-
自然とふれあう農業体験 伊勢崎市で27日に開催 パルシステム群馬2024年4月25日
-
野菜の鮮度保持袋で物流2024年問題解決へ「JAGRI KYUSHU」に出展 ベルグリーンワイズ2024年4月25日
-
粉末化でフードロス解決に挑戦 オンラインセミナー開催 アグリフューチャージャパン2024年4月25日
-
長期保存食「からだを想う野菜スープ」シリーズ新発売 アルファー食品2024年4月25日
-
生産者と寄附者が直接つながる「ポケマルふるさと納税」が特許取得 雨風太陽2024年4月25日
-
焼けた香りや音に満足感「パンの食習慣」アンケート実施 パルシステム2024年4月25日
-
埼玉県産いちごの魅力を伝える「いちごソング」が完成2024年4月25日
-
宮崎県から届いた春の旬野菜やマンゴーが好評「JA共済マルシェ」開催2024年4月25日