地方や農業の未来は自ら切り拓く【小松泰信・地方の眼力】2023年3月1日
「地域のどんな細かな課題も、どんな小さな声も逃さない、常に地域とともに歩んできた」と自党を誇らしく語るのは、自民党総裁岸田文雄氏。(2月26日開催第90回党大会での演説より)
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そして、「地域が元気になってはじめて、日本が元気になる。地方創生、そして日本の活性化に向けて、(略)来る統一地方選挙を必ず勝ち抜こうではありませんか」と、総決起集会と見まがうような檄を送る。
地方を強く意識してか、「地域の未来を創る、地方創生の取り組みも加速化させていきます。デジタルの力で地域の社会課題を解決するデジタル田園都市国家構想を進めるとともに、地域の基幹産業である、農林水産業、観光業、中小企業への支援も強化してまいります。中でも、農林水産業は、国民の食を支え、自然・環境を守り、地域・伝統をつなぐ国の基(もとい)です。私自身、全国各地で、直接伺ってきた生産者の皆さんの想いを受け止め、農林水産業を、女性や若者を含めたさまざまな人材が、意欲と誇りをもって活躍できる、『稼げる産業』としてまいります。そのために、肥料・飼料の高騰対策で生産者の皆さんを支えながら、食料安全保障の抜本的強化や、農林水産品の市場拡大に取り組んでまいります」と、素朴な農業関係者なら拍手喝采するような言葉のオンパレード。
日本農業新聞(2月27日付)も、この演説を紹介するとともに、採択された運動方針で、「食料安全保障の強化と農林水産業の持続的な発展」を掲げ、「食料や生産資材の過度な輸入依存からの脱却、農産物の適正な価格形成に意欲を示した他、多様な担い手の育成・確保も盛り込んだ」ことを、ひねりも入れず伝えている。
まさか地方にお金を回さない!?
中国新聞(2月27日付)の社説は、「中国地方はもちろんのこと、大都市圏以外の地域では少子高齢化や若者の流出に歯止めがかからず、中山間地域や離島を中心に集落の消滅も進む。新型コロナウイルスの影響も脱していない。コロナ禍のさなかに都市部から移住し、地方の暮らしに魅力を感じる人たちもいるが、全体の流れを変えるまでには至らなかった」と、現状を分析する。
その上で、昨年の党運動方針にはあった「財政面・情報面・人材面から強力に支援する」との表現が消え、代わりに「地方発のボトムアップの成長」「地方の自主的、主体的な取り組み」といった文言が目立つことから、「まさか地方にお金を回さないわけではなかろうが、国からの財源移譲が進まない中で、不安に思う向きもあるのではないか」と、牽制する。
加えて、昨年、閣僚の更迭も相次いだ政治資金問題や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題について、演説でも運動方針でも触れていないことに疑問を呈する。
そして、「政権与党の姿勢を、有権者はじっと見ているはずだ」と警告する。
「党大会は『反省会ではない』」そうです
「有権者に響くものがあったろうか」ではじまる信濃毎日新聞(2月28日付)の社説は、「痛いところに触れずじまいでは不信感は拭えない」と、痛いところを衝く。
「教団(世界平和統一家庭連合・旧統一協会。小松)との接点や政治とカネの問題で閣僚4人を更迭したのに、集まった議員や党職員らに意識改革を迫る言葉も聞かれない。森友・加計問題、桜を見る会もそうだった。自公政権は数々の疑惑や醜聞を済んだことのように振る舞い続け、国民への説明責任を果たさずにいる」にもかかわらず、「軍備の増強や原発の利用促進といった重要案件を、国会での審議も経ず、官邸と与党との調整だけで取り決めてきた。『異次元の少子化対策』にしても、通常国会では財源についてさえ答弁を左右にする。議論の土台を整えようとしない」と、指弾する。
「党大会は『反省会ではない』」と、うそぶくベテラン議員の言葉を紹介し、「あらゆる場を国民の不信を解く機会と捉えるべきだろう。政権党としての自覚が伝わらない」と猛省を促している。
改憲論議よりも優先すべきこと
北海道新聞(2月27日付)の社説も、タイトルに「不信拭う意志が見えぬ」と記している。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党との不透明な関係、相次ぐ閣僚辞任の引き金になった政治とカネの問題、さらに 森友学園問題をあげ、解明されていない疑惑も多いことから、謙虚に検証し自らの足元を見つめ直すことを求めている。
さらに、「首相演説、運動方針ともLGBTなど性的少数者への理解増進法案の対応には言及がなかった」ことから、「差別発言で元首相秘書官が更迭されたことへの反省が見えない」とする。
運動方針で「女性活躍」の推進を打ち出したにもかかわらず、選択的夫婦別姓には何も触れていないことを指摘し、「旧統一教会は同性婚などに拒否感を示してきた。その影響はないのか検証が欠かせない」と迫る。
そして、首相が「時代は憲法の早期改正を求めていると感じている。野党の力も借り、国会の議論を一層積極的に行う」と述べたことから、「国民の不信解消の道筋も見えないのに、国論を二分する改憲に突き進む姿勢に強い違和感を覚える。改憲論議よりも、優先すべきことがあるはずだ」とダメを出す。
追い込まれる地方
西日本新聞(2月28日付)は1面で、「九州 進む後方拠点化」という大見出しで、ふたつの記事を載せている。
ひとつは、「戦後安全保障の大転換となった反撃能力(敵基地攻撃能力)用の弾薬庫が大分市に建設見通しとなり、米国で行われてきた離島防衛の日米共同訓練が初めて大分、鹿児島、沖縄の3県で展開されている」ことから、九州において台湾有事を見据えた「対中国シフト」の後方拠点化が進んでいること。
もうひとつは、佐賀市の坂井英隆市長が2月27日に、陸上自衛隊輸送機オスプレイの佐賀空港への配備計画を受け入れる考えを表明したこと。坂井氏は記者会見で「検討を重ねた結果、苦渋の思いだが、受け入れはやむを得ない」と説明したそうだ。
これを受け、井野俊郎防衛副大臣も同日佐賀県庁で、地元に対して「丁寧に説明して、(不安を)払拭していく」と強調したとのこと。でも、「丁寧な説明」がウソであることは首相が証明済み。
美辞麗句に粉飾された地方や農業に未来はない。自ら切り拓く先にこそ、地方や農業の未来はある。
「地方の眼力」なめんなよ
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