格差拡大が続く【森島 賢・正義派の農政論】2023年7月31日
格差は諸悪の発生源である。その根源に、労働の搾取がある。われわれの協同組合思想は、搾取を否定する。そして格差の根源を絶つ。人類は、この思想に導かれて、平等へ向かう歴史を刻んできた。
その一方で、これを否定する思想がある。格差こそが、経済発展の原動力だ、とする思想である。市場はその好適な装置だ、というのである。ここに一理がないわけではない。しかし、この思想は、社会に格差による対立と分断と抗争をもたらしてきた。
日本について言えば、日本の格差は拡大し続けている。このままでいいのか。そのことが、いま厳しく問われている。
いったい、日本の格差の現状はどうなっているか。
上の図は、日本の所得格差について、この37年間の推移をみたものである。ここでは、所得額の多い10%の世帯の所得額の合計が、全世帯の所得額の合計の何%を占いるか、を格差の指標として、それを推計した結果である。もしもこれが10%なら、全くの平等、ということになる。実際はどうか。
この図をみると、1985年は26.7%だったが、2004年には32.5%にまで大きくなった。つまり、格差が拡大した。この年以後は縮小した、とはいうものの、その勢いは弱々しい。最近の2021年には31.9%にまで戻ってしまった。(詳しい推計方法と推計結果は、文末の数学注に記載した。)
これは、何を意味するか。
◇
格差の拡大は、低所得者から高所得者への所得の移動である。だから、低所得者にとっは望ましくない。だが、高所得者にとっては望ましいことになる。本当にそうか。
格差の拡大は、国家という共同体の中で、人たちの分断を生む。そして対立と抗争を生む。そうなることを、心ある高所得者は望んでいるか。
これは、文明の選択の問題である。ウクライナ紛争の底流で渦巻いているのは、この文明の選択にかかわる抗争である。
日本はどうか。格差の拡大を是とするか、それとも非とするか。そして、ウクライナ紛争に直面しているいま、どんな文明を選択するか。米欧側に加担して格差が拡大する文明を選択するか、それとも、米欧側とは一線を画すか。
格差を根絶するには、搾取を制度として廃絶するしかない。
その先に、搾取のない、したがって格差のない、協同組合社会の楽園がある。
【数学注】対数正規分布モデルによる所得格差の推計
この推計の目的は、日本の所得格差を推計することである。このために、世帯の所得額が上位10%の世帯について、その合計所得額が、全世帯の合計所得額に占める割合を、格差の指標にして、それを推計した。
これまでは、この目的のためにジニ係数などを推計して、格差の指標にするものが多かった。その中には、衒学的なものもあった。ここでは、誰もが直感的に理解しやすい上記の割合を、格差の指標にした。
推計のために使った資料は、厚生労働省の「国民生活基礎調査」である。世帯を25の所得階層に分けて公表しているなど、詳細な資料である。
推計のためのモデルは、対数正規分布モデルとした。無数の原因によって現象する社会事象の分析について、このモデルが有効であることは、これまでのわれわれの経験である。
とはいうものの、社会調査にともなう非標本誤差は免れない。特に、所得が上位の階層に、それが見られるように思われる。
これは、農村で以前にみられた「縄のび」や「隠し田」と同じである。太閤検地いらい、いや、班田収授の法いらい、所得や資産を過少に申告することでソンをすることはなかった。それは、搾取に対する一種の抵抗だった。この是正は、今後の課題である。
推計の方法は、累積分布を対象にした最小二乗法である。最小化の方法は、「総記法」を「山登り法(谷下り法というべきか)」で効率化した方法である。
この方法によれば、階層の中間を補間する方法による恣意性と、所得最上位階層の所得上限についての恣意的な仮定を免れる。
以下に、2021年の推計結果を、1つの例として示した。
推定した密度関数を f(x) とする。ここには円周率πのほかに、MとSの2つのパラメータがある。
所得が上位10%目の世帯の所得額を X10 とし
世帯所得額がX10より多い世帯の合計所得額が、全世帯の合計所得額に占める割合をR10とすると、次のようになる。
積分は1万円単位で行い、必要に応じて直線補間した。
2021年の推計結果は次の通りである。
M = 6.03251
S = 0.810037
X10 = 1176.38 万円
R10 = 31.8634 %
(2023.07.31)
(前回 食糧を武器にするな)
(前々回 日本酪農消滅の危機)
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