(349)ところで在庫はどうか【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年9月15日
食料安全保障の議論は様々な観点から行うことが可能ですが、切り口のひとつは、例えば穀物や油糧種子が十分に、そしてどこにあるか…というものです。
いろいろと突っ込みどころはあるだろうが、現代日本の食生活は世界標準から見れば、全体として極めて優良であろう。少なくともスーパーやコンビニなどを見る限り、一時的な品切れなどは生じても何とか全体が回っている。レストランに行けば、いつでもほぼメニュー通りの食事を味わうことができる。
さて、2020年以降のパンデミックの混乱と、2022年以降のロシアによるウクライナ侵攻で国際的に価格が高騰した穀物は小麦とトウモロコシである。興味深いことにこの時期、国際市場におけるコメ価格は低調であった。最近は小麦とトウモロコシ価格がピーク時より低下し、コメ価格が上昇した結果、いずれも2021年初頭の水準に戻りつつある。
価格上昇した2品目を輸入に依存するわが国では、食料安全保障への関心が急速に高まり、今日に至る。安全保障の備えを「もしもの時」とするならば、食料においてその「備え」に相当するものは何か。「備え」の種類は外交・協定・その他様々だが、最もわかりやすい「備え」は「在庫」である。
そこで、米国農務省の公表数字(2023年9月12日)をもとに、世界の穀物・油糧種子の在庫がどのくらい存在するのかをまとめると以下のとおりとなる。

穀物・油糧種子の合計需要はざっと33億トンと見れば、9億トンの在庫は在庫率27%になる。全体としては悪い数字ではない。ただし、在庫が存在する場所を見ると、半分以上(53%)が中国に存在していることがわかる。これを明確に認識している人は以外に少ないかもしれない。
2023/24の需要量見通しを基に試算すると中国の在庫率は62%であるのに対し、米国やインドは20%程度となっている。
やや古い数字だが、1974年にFAOが提示した安全在庫水準は17~18%である。その意味では米国やインドはそれなりに水準を維持している。在庫率2割というのは、全てのサプライ・チェーンが順調に稼働した前提での話と理解した方が良い。あるいは単純に年間365日の2割と考えれば73日、つまり2か月強になる。これを高いと考えるか低いと考えるかはまさに状況による。
憂慮することが何もない状態では、当事者は他のことを考慮せずサプライ・チェーンの維持管理を含めた流通コストの低下のみに集中できる。もう20年以上前になるが、筆者が穀物購買の仕事をしていた時のある品目の在庫率は0.8か月程度であった。多い品目でも1.2か月といった形で回していた記憶がある。とにかくギリギリの在庫でいかに「切らさず」回すかが問われた時代だったのも、全ての環境が安定していたからだ。
そう考えると、現在の中国の在庫率は恐ろしく高い。半年分以上に相当する。ビジネスに関しては極めて合理的な中国が、何故、半年分以上の穀物・油糧種子在庫を積み上げてきているかはもう少し注意し、背景を丁寧に分析しておいた方が良い。
そして、同じことを日本に当てはめた場合、現在の日本の在庫率は全体としてどのくらいになるか。その水準は他国と比べて適切かどうか、食料安全保障への新たな「備え」の次のステップはこの当たりをしっかり認識するところから始める必要がありそうだ。
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個人生活における「備え」である保険には保険料がかかります。安全保障も同じことで、一定のコストがかかることも理解しておく必要があります。問題はその内容と費用、これはいつの時代でも変わりません。
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