命の声が聞こえるか【小松泰信・地方の眼力】2023年9月20日
〈学校に命の声が響いてる〉。これは福岡県広川町の農機メーカー「オーレック」が、九州・沖縄の農業高生から募集した第6回となる川柳コンテストの今年のグランプリ作品。

価格転嫁の困難性と「直接支払い」の充実
9月11日、「農政の憲法」と呼ばれる「食料・農業・農村基本法」の見直しに関する農林水産省の有識者会議が最終取りまとめと答申を行った。1999年に施行され、25年近くがたった。この間に顕在化した地球温暖化問題や世界の人口増加、そしてロシアのウクライナ侵攻などを背景とし、食料危機時に生産転換や流通規制を指示する体制の検討や、食料安全保障の強化に向けて農産品の国内生産の拡大や価格転嫁の推進を提言した。
信濃毎日新聞(9月15日付)の社説は、大きく変わる食料事情を踏まえた法改正の必要性を認めつつ、「農業を主な仕事とする人は、2000年に240万人だったのが22年には123万人に減った。担い手や農地をどう維持していくか。生産基盤を失ってしまえば増産指示どころではない」ことを指摘し、「答申は課題の列挙にとどまっており、衰退の続く国内農業を立て直す道筋は見えてこない」と手厳しい。
農畜産物に関する「価格転嫁の推進」については、高騰する肥料や光熱費を小売価格に十分に反映させられず、農業経営が圧迫されていることを重々承知した上で、「値上げに苦しんでいるのは消費者も同じ」であるがゆえに、「安さを求めるあまり国内農業が衰退すると、ひいては消費者も不利益を被る」という答申の論調に対しては、「正論だが、高くても買うよう啓発に力を入れるだけでは解決しないだろう」と冷静に見ている。
「貿易の自由化を巻き戻すことができない以上、今後も海外から安価な農産物の流入は続く」ため、「ここはまず、弱体化した生産基盤の現状を直視し、最低限維持すべき農業者の数や農地面積を見極める作業から、具体策の議論を始めてはどうだろうか」と提言する。
さらに、「欧州などでは、自国で一定の農業生産を維持する観点から、農業者の所得を直接支援する『直接支払い』の政策が広がった。日本も検討に本腰を入れるべきだ」と正論で締める。
農産物価格形成の特徴から考える
「燃料や肥料の価格が高騰しているのに、値上がり分の農産物価格への転嫁が進まず、農家の経営が厳しさを増している。政府は対策を急ぎ、農業の生産基盤を守る必要がある」と力説するのは、読売新聞(9月17日付)の社説。
「農産物は、主に需給により価格が決まる。天候不順で不作となれば値が上がり、豊作なら値下がりする。そのため、コストが上がっても、そのまま販売価格に上乗せするのが難しいという。鮮度が大事な品目では、価格交渉で不利になりやすい。スーパーの安売り競争の影響もある」と農産物価格形成の特徴を整理し、「日本の農業を守っていくためには、農家が適正な利益を得られるようにしていくことが大切だ」と訴える。そして、「フランスでは、農産物の生産にかかったコストを指標化し、それを価格に上乗せするよう買い手や小売業者らに促す法制度が導入されている」ことを紹介し、「日本も農産物の価格形成のあり方について、論議を尽くす必要がある」とする。
それにつけても食料自給率の低さよ
新潟日報(9月19日付)の社説は、「食料安保の強化を目指すという方向性は当然だ。不測時に限らず、平時からの備えの重要性を明記したことももっともだ」とした上で、「規制や制限に関する新たな法制度が必要な場合は、その意義を国民に丁寧に説明する必要がある」と、口だけ丁寧の現政権にクギを刺す。
さらに、2022年度におけるカロリーベースで38%と、先進7カ国の中で最低水準のわが国の食料自給率に関して、「自給率を上昇させるには、高齢化が進む農業の担い手育成、耕作放棄地の活用など長年にわたる課題への対応が不可欠だ」とし、流通関係者や消費者などに生産現場の実態を理解してもらう取り組みを提言している。
重要な平時からの備え
愛媛新聞(9月15日付)の社説は、「食を守るには農業振興という農政の原点が鍵を握り、資材高騰などに伴う値上げには消費者の理解も欠かせない」が、「現状では、生産コストが上昇しても販売価格に反映させることが難しい」と吐露している。
全国農業協同組合連合会(JA全農)の折原敬一会長が、食料安保が重要な時機にあるとし、「これまで以上の支援を農家にしていく」と強調したことを取り上げ、「流通過程の効率化を含め、国と知恵を絞るべきだ」とする。
改めて言うまでも無いが、価格転嫁が困難で苦しんでいる農業者はJAの組合員。JAグループの一員である全農にとって、農業者は単なる顧客ではない。支援と言っても国が行う支援とは魂の置き所が違うことを忘れてはならない。
さて社説子は、「平時からの備えも重要だ。持続可能な農業のための担い手確保や農地整備、所得向上、人工知能(AI)を活用したスマート農業化など」による生産拡大と同時に、フードドライブやフードバンクの活動を広げることなどで食品ロスを減らす取り組みの必要性についても言及している。
最後に宮下一郎農水相が、基本法見直しに向けて「さまざまな課題を乗り越え、農業を前に進めるよう全力を尽くす」と述べたことを受け、「農政の重要施策を吟味し、食料安保を通して国民生活を守る使命を改めてかみしめなければならない」と要望する。
この布陣にご用心
その宮下氏は、日本農業新聞(9月15日付)によれば、「自民党農林部会長などを歴任し、農政に精通。内閣改造では農相の『本命』として衆目が一致し、党基本法検証プロジェクトチームの森山裕座長も岸田文雄首相に起用を進言するなど信頼を寄せる」人材で、〝宮下農政〟の支援体制は強固、とのこと。さらに同紙(9月20日付)は、農水副大臣(鈴木憲和氏、武村展英氏)と政務官(高橋光男氏、舞立昇治氏)を、「農政通で固めた〝基本法布陣〟」という見出しで、期待を込めて紹介している。
本当に彼らに期待して良いのだろうか。西日本新聞(9月16日付)は、武村、舞立、両氏に、あの世界平和統一家庭連合(旧統一協会)との接点があったことを伝えている。
彼らが「命の声」に耳を塞ぎ、この国の「基」である「農ある世界」を蹂躙せぬよう注視していかねばならない。
「地方の眼力」なめんなよ
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