(354)インフレ・メッサーシュミット・谷間【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年10月20日
「人生100年時代」と言われますが、現実の100年は長く忘れ去られることも多々あります。そこで今から100年前の世の中の一部を簡単に眺めてみます。
第一次世界大戦が終了し、当時の連合国と敗戦国ドイツとの間にベルサイユ条約が締結されたのが1919年、今から104年前である。戦争で負けたドイツは1320億マルクという有名な「天文学的」賠償金を課されている。
当時のドイツの支払能力は最大で400億マルク程度と見なされていたようで、やむなく受入れはしたものの国内の反発が極めて大きかったことは想像に難くない。
ちなみに、その後の様々な国際情勢の変化(ナチスによる賠償金支払い拒否や、近年では統一ドイツ成立を優先した支払い猶予など)を乗り越え、ドイツがこの賠償金を完済したのは2010年である。実に90年以上をかけて完済したドイツ、そして最後まで請求を放棄しなかった連合国の執念も凄い。
話を当時に戻すと、ドイツ国内では戦後のインフレがひどく、マルクの価値が大暴落している。当時の文献には、米ドルに対しマルクは4兆2000億分の1にまで下落したという記録がある。要はほぼ無価値ということだ。
現代の多くの日本人は実体験としてこうした状況をほぼ経験していない。終戦後のハイパー・インフレを経験した世代は後期高齢者でもかなり上の世代になる。
たまたま1980年代初頭、南米に滞在した筆者は同様な感覚を経験した。南米諸国が累積債務問題で注目を浴びていた頃だ。2~3日でモノの値段が大きく変わるため、常に生活用品の価格を確認するのが日常となった。100年前のドイツの庶民が経験した感覚とは雲泥の差があるとはいえ、高インフレ下での生活は現代社会では想像もできないことが起こる。
例えば、賃金を月給でもらっていた人々は、インフレにより目減りするため、週給から日給、そしてついに1日に何度か分割して賃金の支払いを受けたという記述すら残っている。最後は、食料(ジャガイモやミルク、バター)などを入手するため、紙くず以下の価値しかない紙幣の代わりに、本当に物々交換の世界が各所で生じたようだ。
だが、このような状態のドイツでも優秀な技術者は残っていた。例えば、今から100年前の1923年、若干25歳の青年が飛行機製造会社を立ち上げた。フランクフルトで生まれた彼の名前はWilhelm Emil Messerschmitである。少し戦闘機に関心ある人間であれば直ぐにわかるであろう。後の第二次世界大戦の代表的戦闘機として、日本の零式艦上戦闘機(ゼロ戦)、イギリスのスピットファイアととともに、ドイツのメッサーシュミットは有名である。逆境の中で若者が起業し成功した事例の一つである。
最後に1923年の日本のことを少しだけ記しておきたい。言うまでもなく1923年9月1日は関東大震災である。時の首相は誰か。実は第21代首相加藤友三郎は8月24日に病気で亡くなり、山本権兵衛がその後を引き継ぐ。しかし、山本権兵衛内閣が成立したのは9月2日である。つまり、8月25日から9月1日までは首相不在期間であり、その間、臨時首相として震災当日まで対応したのは前外務大臣内田康哉と記録されている。
内田は明治・大正・昭和の3つの時代で外務大臣を務めた唯一の人物かつ通算外相在任期間も7年5か月で最長のようだ。これに関東大震災当日の臨時首相が加わる。意外と知られていないキャリアである。
* *
インフレ、メッサーシュミット、そして首相引き継ぎの谷間に発生した関東大震災、さらにそれを引き継いだ人がいたこと、いろいろと興味深いですね。
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