一農政学徒の手記・・・搾取から協同へ【森島 賢・正義派の農政論】2024年1月9日
アメリカの外交・軍事行動は二重基準だ、と一部の評論家がいう。アメリカは、一方では、東欧でロシアから「侵略」されているウクライナを軍事支援している。他方では、中東でガザを侵略しているイスラエルを軍事支援している。これは二重基準ではないか、というのである。
果たして然るか。ここには、一部の評論家の思考の浅薄さがある。そこで思考を止めてしまう。ここには、知性の退廃がある。矛盾のある二重基準の深奥に隠されている、矛盾のない統一した大基準に迫る知性がない。
アメリカの大基準は、搾取の肯定であり、その拡大なのである。東欧では、そのためにNATOを使って、搾取を東方へ拡大し、中東では、イスラエル系資本の搾取の拡大を支援している。矛盾はない。
アメリカの搾取拡大の大基準に対峙する基準は何か。それは、搾取を否定する協同の拡大である。
いま、この2つの対立する考えをめぐって、世界が激動している。

上の図は、中国憲法の前文の一部である。これは、アメリカを盟主にした搾取拡大の陣営に対峙する、という中国の国是である。そうして、地球の全体を、搾取を否定する共同体にしたいと考えている。
共同体と農協などの協同体とでは、すこし違うが、それほど大きな違いはない。
◇
東欧のウクライナ紛争を考えよう。その原因はNATO軍事同盟の東方拡大である。冷戦が終わって以後、NATOは東方、つまり旧ソ連圏へ、その勢力圏を拡大して、旧ソ連圏の国々をNATOに加盟させてきた。そうして米欧資本の搾取を拡大してきた。しかも、NATO軍の武力で威嚇しながら拡大してきた。つまり、ロシアの国境近くに軍隊を駐留して威嚇してきた。つぎはウクライナ、というわけである。
このことをロシアが黙っているはずがない。ここにウクライナ紛争の原因がある。
これを見てきたNATO加盟国以外の世界の国々は、どうか。つまり、アジア、アフリカ、中南米の国々はどうか。NATO軍は東方拡大に止まらず、その後は自分たちの国々に、武力で襲いかかってくることをおそれている。だからNATO側から「侵略国」といわれているロシアを非難しない。もち論、紛争を早く終えることを希んでいる。
◇
中東のガザ紛争はどうか。これは、イスラエル系資本による、あからさまな搾取の拡大である。これにアメリカは反対しない。それどころか、侵略国のイスラエルを軍事支援している。
ここには、搾取を肯定し、搾取を拡大しようとするアメリカの大基準がある。また、そうすれば今秋の大統領選挙で、イスラエル系資本から多額の選挙資金がもらえる。
このように、アメリカの政治は資本が牛耳っている。政治家は資本家の走狗になっている。前述の「二重基準」は、皮相的な見方で、搾取の拡大・深化という、恥ずべき、だから隠したい大基準が、その根底にある。
搾取を肯定するアメリカの「民主主義」は、こうしたものなのである。ここから脱出するには、搾取を否定するしかない。農協は、生まれながらに搾取を否定する組織である。
◇
協同体である農協の民主主義は、こうだ。
そこには、全員一致の大原則がある。物事を決めるとき、1人でも反対の人がいれば、結論を決めないで協議を続ける。反対論を言葉でうまく表現できない人がいれば、協議を中断し、世話役が徹夜してでも反対の理由を聞く。搾取・被搾取の関係がないから、それほど深刻な争いにならない。そして、翌日に協議を再開する。それでも反対したい人がいるときは、妥協してもらって共同体への「貸し」にしてもらう。そうして全員一致の大原則を貫く。爺さんの「貸し」を孫の世代に「返す」ということは、よくあることである。
このようにして、収穫の秋には、全員がそろって和気あいあいと、お祭りを祝う。
世界の国どおしの関係を考えるとき、搾取のあとには、このような共同体の原則が支配する世界が到来するだろう。中国は、それを憲法の前文に書き込んで、それを国是にしている。米欧では、反対する国が多いだろうが、その他の国々は、賛成する国が多いだろう。
米欧の国内でさえも、搾取拡大の一枚岩ではない。搾取拡大の一辺倒ではない。世界に協同の日が来るのは近い。
いったい日本はどうなのか。日本は米欧の側に立って搾取を拡大しようとしている。それでいいのか。
(2024.01.09)
(前回 一農政学徒の手記・・・知と情と)
(前々回 食生活の劣化)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより『コラム名』をご記入の上、送付をお願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
スーパーの米価 前週から10円上がり5kg4331円に 2週ぶりに価格上昇2025年12月19日 -
ナガエツルノゲイトウ防除、ドローンで鳥獣害対策 2025年農業技術10大ニュース(トピック1~5) 農水省2025年12月19日 -
ぶどう新品種「サニーハート」、海水から肥料原料を確保 2025年農業技術10大ニュース(トピック6~10) 農水省2025年12月19日 -
埼玉県幸手市とJA埼玉みずほ、JA全農が地域農業振興で協定締結2025年12月19日 -
国内最大級の園芸施設を設置 埼玉・幸手市で新規就農研修 全農2025年12月19日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】「経済関係に戦略性を持ち込むことなかれ」2025年12月19日 -
【農協時論】感性豊かに―知識プラス知恵 農的生活復権を 大日本報徳社社長 鷲山恭彦氏2025年12月19日 -
(466)なぜ多くのローカル・フードはローカリティ止まりなのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月19日 -
福岡県産ブランドキウイフルーツ「博多甘熟娘」フェア 19日から開催 JA全農2025年12月19日 -
α世代の半数以上が農業を体験 農業は「社会の役に立つ」 JA共済連が調査結果公表2025年12月19日 -
「農・食の魅力を伝える」JAインスタコンテスト グランプリは、JAなごやとJA帯広大正2025年12月19日 -
農薬出荷数量は0.6%増、農薬出荷金額は5.5%増 2025年農薬年度出荷実績 クロップライフジャパン2025年12月19日 -
国内最多収品種「北陸193号」の収量性をさらに高めた次世代イネ系統を開発 国際農研2025年12月19日 -
酪農副産物の新たな可能性を探る「蒜山地域酪農拠点再構築コンソーシアム」設立2025年12月19日 -
有機農業セミナー第3弾「いま注目の菌根菌とその仲間たち」開催 農文協2025年12月19日 -
東京の多彩な食の魅力発信 東京都公式サイト「GO TOKYO Gourmet」公開2025年12月19日 -
岩手県滝沢市に「マルチハイブリッドシステム」世界で初めて導入 やまびこ2025年12月19日 -
「農林水産業みらいプロジェクト」2025年度助成 対象7事業を決定2025年12月19日 -
福岡市立城香中学校と恒例の「餅つき大会」開催 グリーンコープ生協ふくおか2025年12月19日 -
被災地「輪島市・珠洲市」の子どもたちへクリスマスプレゼント グリーンコープ2025年12月19日


































