【浅野純次・読書の楽しみ】第94回2024年1月25日
◎高坂正堯『歴史としての二十世紀』(新潮選書、1760円)
著者は27年前に物故されたので当然ながら著作はずっと出ていないのですが、1990年に行われた連続講演から成る本書は内容的にも新刊そのものと言えるでしょう。
「失われた30年」に入る直前だった日本は経済も絶頂期にあり、米国との経済摩擦が燃え盛っていた頃の講演です。冷戦が終結し、世界が大きな転換点を迎えようとしている中での透徹した歴史観が披瀝されます。
20世紀は戦争の世紀でしたが、短い戦間期もまた重要な意味を持ち続けました。戦争と戦間期が織り成す時代の意味と役割を本書は見事に解き明かしていますが、そればかりでなく21世紀もまた同じ視座から眺めることになるだろうと看破しています。
そこで重要になるのは国民性だという論点は非常に説得力があります。具体的には論及されませんがナショナリズムをここから考えていく良いヒントになりうるでしょう。
特にロシアやイスラエルに関する論考は現在を予見していたかのようで見事なものです。30年も前の講演が今なお圧倒的な説得力を持って読者に訴えかけてくるのは、いかに私たちにとって「歴史」が重要かを示すものです。エピソードが多いのも楽しめるはず。一読をお薦めします。
◎河野真太郎『はたらく物語』(笠間書院、1980円)
働くことのありようと内実を、フィクションに描かれた物語に即して考えようというなかなかユニークな本で、もっぱらフォーディズムとポスト・フォーディズムという二つの文化区分の下で労働が分類、考究されます。
前者はフォードのベルトコンベア生産に象徴される単純労働で、大量生産、繰り返しの肉体労働、専業主婦などに象徴されるもの。「疎外」という言葉がぴったりです。
一方、後者は新自由主義体制の下、全体的、創造的、非物質的労働などが想定され、女性も家庭から抜け出て賃金をもらって働きます(と来るといかにも後者が高評価されそうですが、それほど単純ではありません)。
そして「3月のライオン」「プラダを着た悪魔」「マイ・インターン」などを素材に働くことが手を変え品を変えて考察されていきます。マンガや映画やアニメを未読、未見でも詳しく紹介されるので大丈夫です。「働く」ということがここまで深掘りされうるのか、学ぶことは多いなと驚かされる人も多いでしょう。
◎市川慎次郎『新入社員は78歳』(かんき出版、1650円)
舞台は駅の売店などでよく見かける横引きシャッターの中小企業です。今でこそ無借金の優良企業ですが、著者が創業者の父親の下で働き始めた頃は借金の塊だったとか。
給料遅払い、税金滞納、仕入先未払いが各1億、銀行に6億の計9億円の借金を抱えていたそうです。社員100人の企業としては尋常ではありません。
若かった著者は「貯金箱理論」はじめ地道でユニークな方法を積み重ねコツコツと借金を減らしていきます。と同時に従業員の働き甲斐と士気を高めるためあの手この手を打って成果を上げます。
この会社のユニークなところは多々ありますが、中でも年齢、性別、国籍を一切不問とする雇用制度には感嘆させられます。70代で採用された社員や94歳で亡くなる2日前まで働いていた社員の話も! しかも「会社も人も成長する」のだとか。紹介される知恵と工夫と努力はどんな小企業にも参考になるのではないかと感じました。
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