【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】データが示す「農業総崩れ」~放置して有事だけ罰則で増産させるという愚かさ2024年6月20日
政府筋からは、すでに畑作のゲタ政策(内外コスト差補填)、コメのナラシ政策(収入変動緩和)、収入保険(収入変動緩和)、中山間地・多面的機能直接支払いなどが十分行われており、これ以上、何が必要なのか。これで潰れるなら潰れたらよいという声さえ聞こえてくる。
担い手が減り、高齢化し、農業・農村の疲弊は続いており、大多数の農家が潰れるのは止められない流れであり、それを前提として考える議論が行われている。そもそも、担い手が減り、高齢化したのは政策の欠陥なのだから、それを改善することで食い止める議論こそが必要なのではないか。
それをせず、ごく一部の残った農家が、輸出を伸ばし、スマート農業、海外農業投資などで儲ければそれでよいから、農業法人への農外資本比率を増やす(50%未満→2/3未満)措置をはじめ、輸出やスマート農業、海外農業生産投資などのための関連施策を関連法で準備している。
固定的なゲタは、今回のようなコスト高には対応できない。収入変動緩和策も農家のコストに見合う水準を保つセーフティネットではなく、特に、今回のコスト高には役に立たない。中山間・多面的機能支払いも個別農家当たりの支給額が小さく、都道府県負担も重い。だから、施策が十分なわけはなく、だからこそ、農業の疲弊が加速しているのである。それを度外視して、国内農業支援対策は十分行われているというのは理解できない。
実際に、農水省公表の経営収支統計を確認すると、農家の疲弊の厳しさに驚く。2022年の段階で、稲作では、全体で、1年働いて手元に残るお金は1戸平均1万円で、自分の労働への対価は時給にすると10円にしかならない。
個人経営だけの集計だと、所得はマイナス3万円と完全な持ち出しになっている。法人経営でも、平均33ヘクタールの経営で、200万円程度の所得しかない。これでは、誰かが残るどころか総崩れである。
酪農・肉用牛経営も深刻な事態である。酪農経営では、平均で所得はマイナス、小規模層では、かろうじてプラスだが、もっとも酪農業界を牽引して規模拡大してきた平均330頭の大規模層では、赤字が平均で2,000万円を超えている。
肉用牛経営も同様で、平均で所得はマイナス、小規模層では、かろうじてプラスだが、もっとも業界を牽引して規模拡大してきた平均1,300頭の大規模層では、赤字が平均で3,000万円にもなっている。このように、もっとも酪農・肉牛経営を支えてきた大規模層が最も深刻な赤字にあえいでおり、コメも、酪農・畜産も、まさに、「総崩れ」の様相を呈している。
政策は十分であり、一部の経営だけでも生き残ればよい、として、この深刻な総崩れの事態を放置して、支援策は出さずに、有事には、罰則で強制増産させればいいだけだ、という政策を進めようとしていることの愚かさ、怖さを今こそ認識する必要がある。
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