"IPEF公正な経済協定"と裏金・議員秘書給与不正受給を考える【近藤康男・TPPから見える風景】2024年8月22日
これまで、先行して公表されたIPEF・繁栄のためのインド太平洋経済枠組みに関する協定の「サプライチェ-ンの強靭性に関する繁栄のためのインド太平洋経済枠組み協定」について分析をした。今回は、2023年11月に実質合意と報道されたまま、やっと6月6日付で合意され公表された「公正な経済に関する繁栄のためのインド太平洋経済枠組み協定」を取り上げたい。
まずは、「公正な経済」とはどんなものであるべきかについて、私見を記しておきたい。
第一に"人権"が基軸に置かれるべきだろう。
そのうえで、差別・排外主義を排し、加えて透明性と説明責任により担保されて、初めて"公正"足り得ると考える。
◆IPEF漂流を象徴しているのか?公表に見られる迷走
2022年5月に米国バイデン大統領が提唱したIPEFだが、2023年11月14日に「サプライチェ-ンの強靭性に関する繁栄のためのインド太平洋経済枠組み協定」(以下"IPEF供給網協定"とする)が署名・公表され、同時に「公正な経済に関する繁栄のためのインド太平洋経済枠組み協定」("IPEF公正な経済協定")と「クリ-ン経済に関する繁栄のためのインド太平洋経済枠組み協定」("IPEFクリーン経済協定")も、"実質合意"と報道された。
しかし、「IPEF供給網協定」を除く他の2つの協定が公表されたのは、半年以上経った2024年6月6日(木)だった。
バイデン氏が最も重視した筈のIPEF4分野の「貿易分野」は、相変わらず行方不明のままだ。
◆"IPEF公正な経済協定"に目立つ実効性に欠ける文言
この協定は、61ページ・35条及び付属書Ⅰ・付属書Ⅱとで構成されている。そして、冒頭の2ページで、「贈収賄その他の腐敗行為、資金洗浄等の犯罪行為及び不公平で非効率な税制」が、「公私の機関を劣化させ、並びにその独立性及び健全性を損ない、富の格差及び不均衡を悪化させ、投資環境を侵食し、国際的な商取引、貿易及び投資を混乱させ、労働者の権利を損ない、並びに最終的には民主主義及び法の支配を弱めることにより、インド太平洋地域全体の?栄した、包摂的な及び安定的な経済秩序の基盤を侵食する」ことを指摘している。同時に「公正性、包括性、透明性、法の支配及び説明責任」が、「~投資環境改善、繁栄の共有~ILOに基づく労働者の権利促進~企業及び労働者にとっての競争条件を対等にするために」不可欠であること、そのために「様々な分野での腐敗行為を防止し、特に少数者・弱者の参加を担保することが経済成長・自由貿易や投資による利益が広範に共有され・確保されるうえで不可欠である」ことを認識し、「公私の諸部門、少数者・弱者などへの公正な関与・支援・包摂・説明責任など」が求められる(概要を転載)、としている。
しかし、結局は、冒頭の文章に見られるように、"認識・考慮・支援・協力・希望・努める"などの曖昧な表現で多くの条文が結ばれている。
◆民主主義の劣化に対する言い訳としか思えない
そして、「第1条適用範囲」の4では"この協定のいかなる規定も、一の締約国に~略~他の締約国の領域内において~略~国内法令により~略~管轄権を行使する権利及び任務を遂行する権利を与えるものではない"と規定している。また、「第27条実施」では"この協定は、各締約国が自国の利用可能な資源の範囲内で実施するものとする"と規定している。
これでは、この協定は、義務や約束など実効性を担保するものではない、と思わざるを得ないようだ。
本協定の適用範囲は、企業部門・民間部門や労働者・内外の公務員、UNCAC腐敗の防止に関する国連条約、政府調達に関わる活動、など多岐に渡っている(第3条適用範囲及び一般規定、第4条他の協定との関連等々)。
しかし、最初に頭に浮かんだのは、例の"裏金問題"と"広瀬参議院議員の秘書給与問題"そのものではないか?ということだ。
◆国際協定締結の意義を疑う、"IPEF公正な経済協定"への合意署名①:裏金問題と秘書給与不正受給
"IPEF公正な経済協定"では、"贈収賄、腐敗行為、資金洗浄、非効率な税制"などの言葉が、第2条の「定義」の部分を除き、半数近くのページに書かれている。
あれだけ騒がれた、政治資金における"裏金騒動"だが、一切その実態は明らかにされず、"検討使"よろしく検討‥検討‥の文字の続く、政治資金改正法が24年6月19日に参議院で成立しただけで、今は話題にもならない。一方、本年7月30日には自民党の広瀬参議院議員が秘書給与の不正受給で自民党を離党、8月15日にやっと"軽率だった"として辞職願を出しただけだ。贈収賄とは直結していないようだが、政治家による、"公正な経済活動・公正な政治活動、誠実な納税行為"とは言えない事件が繰り返されている。
"IPEF公正な経済協定"が昨年11月14日に"実質合意"したのなら、その後の裏金問題や税逃れ、議員秘書給与の不正受給へのお粗末な対応、問題だらけの政治資金規正法改正の成立などはあり得ないはずだ。つまり、"IPEF公正な経済協定"合意・署名は本気度を欠いたもので、協定は無意味で無責任なものでしかないということだろう。協定が発効しても贈収賄・腐敗行為、そして税逃れも続くだろう。
日本政府には、"IPEF公正な経済協定"に署名する資格も、履行の意思も見られないと思わざるを得ない。
米国の国別人権報告書 https://jp.usembassy.gov/ja/human-rights-report-2023-japan-ja/
◆更に国際協定締結の意義を疑う"IPEF公正な経済協定"への合意署名②:外国人在留者
米国が、毎年各国の人権に関わる実態報告を公表している。日本については、弱者に対する対応問題などあるが、大枠として「信頼に足る報告・措置がなされている」としている。また、「全体には深刻な問題は見られない」ともしている。ただ、第2部「市民の自由の尊重」の「D移動の自由と出国する権利」「E.難民保護」の条項などで、難民認定人数・対応、出身国への強制送還などについて、NGOから批判があると記している。
一方、移住労働者の劣悪な労働条件と"人身売買(特に風俗営業)"について、「あってはならない問題で大胆な対策が必要」、としている。
"IPEF公正な経済協定"は、第14条で労働法令などによる移民労働者の適切な保護も謳っているが、日本の技能実習生など外国人労働者・在留者に対する人権無視や劣悪な労働環境は、広く知られている。そして、日本政府は、問題が起きても充分な調査も説明もしないままだし、改正出入国管理法は、"公正さ"よりも"管理"という発想で一貫している。
上記の問題は、"公正な社会"という観点からは全く不充分であり、透明性と説明責任で担保された、人権に基づく法整備など、国内法制と施行体制を整えることが求められる。
政府はそのうえで、他国との連携を図るための国際条約に取り組むべきではないだろうか?
日本政府は、本音では"IPEF供給網協定"を経済安保で乗っ取れば、それ以外の分野はどうでもよい、と考えているのではないだろうか?沖縄、外国人在留者、女性など、少数者・弱者へのしわ寄せは今後も続きそうだ。
"本気度ゼロのIPEF"は、結局、供給網協定で経済安保を確保しただけで、後は終わり、とされるのではないだろうか?
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