「集落機能強化加算」廃止で「ムラじまい」【小松泰信・地方の眼力】2024年10月2日
9月17日から25日までドイツへ。一番良かったことは、連日連夜垂れ流し続けられる自民党のPR映像を見なくて済んだこと。
中山間地域等直接支払制度と集落機能強化加算
出国当日(17日)の日本農業新聞の論説は「中山間直払いの見直し」について。チラ見した程度だったが、帰国当日(25日)の同紙論説のタイトルは「中山間直払い見直し」でほぼ同じ。記事を追うと、由々しき事態への警鐘が乱打されている。
由々しき事態とは、農林水産省が202
5年度予算概算要求で、第6期中山間地域等直接支払交付金において「集落機能強化加算」を廃止する方針を示したことである。
季刊地域(9月9日付)によれば、中山間地域等直接支払制度は日本型直接支払のひとつで、多面的機能支払、環境保全型農業直接支払と合わせた同制度の中ではもっとも早く2000年に始まったもの。平地と比べて生産条件が不利な中山間地に、農地管理などについての集落協定を結ぶことを条件に補助金を支払い、農業生産を継続することで耕作放棄地の拡大を防ぐことが目的。この制度は、零細農家、高齢農家、自給農家も排除しない「農家非選別主義」であること、農家を支える集落を強く意識した「集落重点主義」であることが、当事者の農家からも評価されてきたとのこと。
この制度は5年ごとに更新され、2024年度は第5期の最終年度。25年度からは第6期対策となる。その更新内容が25年度の概算要求で明らかになったが、その加算措置の中に集落機能強化加算はない。
廃止が計画されている同加算は、第5期対策(20から24年度)から加えられ、「新たな人材の確保、営農以外の組織との連携体制の構築等の取組を支援」するのもので、年200万円を上限とし、10アール当たり単価は地目にかかわらず3000円となっている。
「付け焼き刃」農政
日本農業新聞(9月17日付)の論説は、「集落機能強化加算」が廃止されれば、「店舗を継続できない」「(加算は)病院への送迎支援に欠かせない。廃止は地域の存続に深刻な影響をもたらす」といった相次ぐ声を紹介し、同加算が「過疎高齢化が進む農山村で、採算の厳しい小売店舗の経営や、配食、送迎サービス、営農ボランティアなど多様な活動を下支えしてきた」ことから、「地域の暮らしを住民主体で守り、多様な人材との交流の原資となっている。(中略)必要なのは同加算の利用をいかに広げ、集落活動をどう守るか、といった視点のはずだ」として、「廃止は拙速で、再考すべきだ」と農水省に迫っている。
また、同省(地域振興課)が「農村型地域運営組織(農村RMO)への移行や、自立した活動を検討してほしい」としていることに対する、「移行は乱暴」(農村RMO推進研究会委員)とか、現場からの「農村RMOはハードルが高い」「地域が混乱する」といった否定的な声を紹介し、「複数の集落や小学校区単位で地域の暮らしを守る活動を進めるRMOと、直接支払いの集落は範囲や規模が異なる」と批判する。
ところが、9月25日の同紙論説は、農水省が「制度を検討する第三者委員会の委員や、廃止に戸惑う現場の声を受けて急きょ方針を転換。これまでの集落機能強化加算を『ネットワーク化加算』に再編し、他の集落協定と連携すれば、生活支援も加算するとした」ことを伝えている。
集落機能強化加算とネットワーク化加算は目的が異なる。加えて、他の集落協定と連携ができない地域もあることなどから、同省の急な方針転換を「付け焼き刃」と表現したうえで、第三者委員会の委員からも厳しい批判が出ていることを伝えている。
さらに、NPO法人中山間地域フォーラム(生源寺眞一会長)が24日、「中山間地域等直接支払制度の集落機能強化加算の廃止に関する意見書」を出し、加算廃止は中山間地域等直接支払制度の根幹に関わるとして厳しく批判し、「廃止方針を撤回し実質的に継続するよう」強く提言したことも紹介している。最後に、地域コミュニティ機能の維持・推進という農村政策の流れに逆行する「加算措置廃止と、小手先の方針転換は農村政策の軽視につながる」と警告する。
「朝令暮改」農政
中山間地域フォーラムの意見書は3項目からなっているが、その概要は次の通りである。
(1)現行の「食料・農業・農村基本計画」においては、今後の農村政策として、「地域コミュニティー機能の維持や強化」を推進することとされ、「新しい農村政策の在り方に関する検討会報告」(2022年4月)においても、「集落機能強化等を後押しする加算措置の更なる活用により、『くらし』の視点を含めた地域課題の解決を図る」ことが強調された。集落機能強化加算は、こうした動きを受け第5期対策の重要項目として新設された。しかしその成果について第三者委員会等における検証も行われないまま短期間で廃止することは、朝令暮改であり、基本計画との整合性及び政策形成の透明性からみて重大な問題がある。
(2)同加算は、高齢者の見回り、買い物支援等に広く活用されて集落機能の強化に大きな役割を果たすとともに、営農面にも良好な効果をもたらしている。加算を活用する協定数も年々増加傾向にある。加算廃止の方針は、地域の現場に大きな失望と混乱をもたらしており、集落の一体的な取組みに努めてきた地域リーダーや市町村の信頼を大きく裏切るものとなっている。
(3)農林水産省は「新設するネットワーク化加算を受ける集落については従来の集落機能強化加算も実質的に継続できるよう検討する。」としているが、集落機能強化加算は、「くらし」の視点を含めて集落機能の強化を図っていこうとする別個の措置であり、個別で集落活動を行う集落の集落機能強化の取組みを、ネットワーク化に取り組まないとの理由だけで支援しない理由は全くない。同加算の廃止により、集落機能強化の重要性が地域の現場に伝わらなくなる影響は極めて大きい。
勘ぐりたくないが勘ぐれば
交付金受給に伴う手続きの煩雑さは置くとして、集落機能強化加算措置が「ソフト的な社会的共通資本」の維持に貢献し、多くの集落にとって好評であったことがうかがえる。中山間地域の生活面などを支えることで、地域農業を持続させてきたことについては、あらためて評価されなければならない。だとすれば、充実する方向での予算措置があって当然、と考えるのが極めて自然。にもかかわらず、予算規模の縮小を飛び越えて廃止に向かうのは極めて不自然。
結論を急ぐなら、政府と農林水産省は、中山間地域に散在する集落の延命や蘇生ではなく安楽死、すなわち「ムラじまい」を求めていることが推察される。アリバイ的にやってみた加算措置の効果に驚き、ゾンビのごとく復活する集落が続出しないように、加算措置という名の生命維持装置を外すことにした。あなたたちの狙いを「コンパクトにシティみました」がいかがかな。
「地方の眼力」なめんなよ
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