【浜矩子が斬る! 日本経済】韓国の非常戒厳騒動に思う "経済強権体制"にも警戒2024年12月5日
12月3日夜、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が「非常戒厳」を発布した。これを受けて、戒厳司令官が一切の政治活動を禁じる布告令を発した。だが、国会議員と市民たちの大反撃にあって、6時間後には大統領が非常戒厳宣言の撤回に追い込まれた。息を呑(の)む展開だった。1987年の韓国民主化宣言以来、鳴りを潜めていたこの強権発動劇、今後の成り行きは本稿執筆段階で不透明だ。尹大統領が弾劾されるかもしれない。
エコノミスト 浜矩子氏
このところの韓国政治は大乱調続きだった。尹大統領率いる与党が選挙で大敗し、少数与党に転じた。その中で、多数の政府幹部や検事などの弾劾訴追が発議されるは、政府予算が成立する目途は全く立たないはで、国政運営が完全に行き詰まっていた。このような事態を招いた野党は反国家行為を行っている。これが「非常戒厳」発布の理由づけだった。だが、国会と国民の怒りの前に、この主張はもろくも崩れたのである。
日本でこういう怖いドラマが起こる余地が無くて良かった。つくづくそう思う。だが、本当に大丈夫か。そうも思う。改憲論者たちの中には、非常事態を宣言して人権や言論の自由を制限できる体制の構築を目論んでいる人々がいる。政治家たちが追い詰められると何をやり出すか解らない。そのことについて、今回の一件が我々に対して警告してくれた。
この出来事が日本経済に直接どう影響するかは、今後の成り行き次第だ。それはそれとして、改めて肝に銘じておくべきことがあると思う。それは、経済活動がその使命を全うすることができるためには、そこに民主主義の盤石な基盤がなければならないということだ。経済活動の使命は人間を幸せすることにある。人間を幸せにできない経済活動は、経済活動の名に値しない。それは偽物の経済活動だ。まがい物である。
民主主義体制が不動のものでない時、経済活動は間違いなく人間を幸せにできない。人間が幸せでいられるためには、基本的人権が徹底的に擁護されていなければならない。そして、国家権力が強権発動という形で牙を剥いた(む)いた時、基本的人権は踏みにじられる。その時、経済活動は経済活動ではなくなる。
強権政治の下でも、経済が成長し、今どきすっかり流行りとなった言い方で言えば人々の「手取り」が増えればいいじゃないか。そんなのんきなことを考えてはいけない。経済ファシズム体制が出来上がってしまえば、そこには利権と腐敗と搾取の温床が広がる。権力におもねる者たちだけが恩恵を受ける世界が出現する。弱者は徹底的に邪魔者扱いされて、切り捨てられて行く風景が広がる。
ここで思い出すのが、故安倍晋三元首相がある時発した言葉だ。アホノミクスの大将いわく、「政府と日銀の関係は親会社と子会社の関係と同じだ。だから、連結決算扱いしていいじゃないか」。これは2017年のことだったが、凶弾に倒れる直前にも、講演の中で「日銀は政府の子会社」論を展開していた。
これを戒厳令の発動と同一視するわけにはいかない。だが、方向感は同じだ。統制経済化をもくろむ発想だ。中央銀行という存在と、その政策的独立性は、経済の世界における民主主義の防波堤である。政治的圧力に屈せず、政府の言い成りにならず、人間が幸せであり得る経済活動の状態を保持する。それが中央銀行に託されたミッションだ。政府の子会社に成り下がったのでは、このミッションを果たせない。
筆者が平目男と名づけた石破茂首相は、日銀は政府の子会社ではないと言った。だが、平目男は手の平返し男でもあるから、あまりあてにはできない。
それにしても、韓国の議員たちも民衆もパワフルだ。いざとなった時の突破力がすごい。賞賛に値すると思う。今回、彼らは民主主義の防波堤の役割をしっかり果たした。
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