先物市場を活用した7年産米の事前契約が成立【熊野孝文・米マーケット情報】2025年1月28日
1月24日、堂島取引所のコメ先物市場の2月限がいきなり840円値下がりして2万5400円になった。この日の午前中開催された農林水産大臣の定例記者会見で農水大臣が貸与方式で政府備蓄米を放出する考えがあることを表明したことが値下がりの要因になった。このことからコメの価格変動要因として最も大きなものは国による政策要因であることが良くわかる。極めて高水準にある米価の現状から、価格変動をどう回避するのかが生産者、流通業者など当業者の最大の懸案事項になっている。こうした中、大手卸とコメ生産法人が今年10月に収穫される7年産米の事前契約をコメ先物市場を活用して締結した。

堂島取引所のコメ先物取引は1月24日現在、2月限、4月限、6月限、8月限、10月限、12月限の6限月が日々取引されている。期先10月、12月は7年産米が受渡し出来るので、大手卸とコメ生産法人は10月限の価格で受け渡しを行うことに合意した。事例として契約内容をわかりやすくするため数字をフラットにして記すと堂島取の10月限の価格は2万5000円で、この価格で1000俵を10月中に受渡しすることにした。コメ生産法人は7年産米の作付け前に2500万円(2万5000円×1000俵)の所得が確定できたことで営農計画が立てやすくなり、経営上のメリットが大きいと喜んでいる。一方買い手の大手卸も事前に7年産米の仕入れ数量と価格が決定したことで計画仕入れが可能になった。
ここで少しややこしくなるが先物市場活用法について触れる。この生産法人は新潟県の生産者で、コメ先物取引が試験上場されているときは「新潟コシヒカリ」が上場商品としてあり、取引所が指定した倉庫が自社の近くにあったので、新潟コシヒカリに売りヘッジして現物を渡すという方法でコメ先物取引を利用していた。いわば先渡し条件取引に近い形で先物市場を利用していたのだが、本上場されたコメ先物取引は「指数取引」であり、現物の受け渡しが出来ないため、先物市場で自ら生産したコメをどのようにして換金して良いのかわからなかった。これは、この生産者だけではなく買い手の卸も自ら必要とする産地銘柄をどのようにして先物市場を活用して入手できるのか良くわからないという状況になっている。
このためこの生産法人と大手卸は、先渡し取引と先物取引を組み合わせる形で、先物市場で形成される価格だけを固定して数量や銘柄、受け渡し条件等を決め契約することにした。
ここで重要なことは、生産者はこうした契約を締結することにより、自ら先物市場に売りヘッジして値下がりを回避する行動をとる必要がなくなったことにある。先物市場に1000俵のコメを売りヘッジするには最低でも80万円の証拠金が必要になる(1枚50俵×4万円×20枚)。これだけでも負担だが、相場が値上がりした場合は追加証拠金も必要になる。
先物市場と先渡し取引を組み合わせることにより、こうした負担が必要なくなる。これは農協が収穫前に7年産米の概算金を決める際に最も有効な手段にもなり得る。買い手の卸は7年産米の現物が出回る10月に価格が下落する可能性に備えて、先物市場に20枚(1000俵)を売りヘッジすれば良い。売りヘッジすることで値下がりしても買い戻して利益を得られるので差損は発生しない。日本のように小規模生産者が多い中国では、大連商品取引所のジャポニカ米先物取引では保険会社が代行してコメ生産者の売りヘッジを行うので、生産者は保険会社に掛け金を支払うだけで済む。日本も収入保険の代行機関が価格変動のリスクヘッジを行えるようにすれば作付け前から生産者の所得が確定でき、価格変動のリスクも回避できるようになる。
最大の問題は、こうした売りヘッジを吸収できるだけの流動性が堂島取のコメ先物市場にあるのかという点である。少しずつ出来高が増えているが、それでも1日あたり100枚程度であり、これでは少なすぎる。堂島取と会員社は近くコメ先物市場活性化策で協議することにしているが、最も効果が期待できるのが「お米券」の活用である。お米券の発行主体である全米販や全農の協力を得て、コメ先物市場に口座を開設した一般投資家にお米券を1枚プレゼントすればよい。堂島の大株主であるSBI証券1社だけでも1300万口座もあるのだからその1割が口座開設しても130万枚のお米券が必要になる。いつでも精米に替えられるお米券は資産にもなり、かつ家庭内備蓄としての役割も果たせる。何よりも一般消費者がコメに関心を持つきっかけになる。
先物市場を活用した7年産米の事前契約手法については2月5日に開催される一般財団法人農政調査員会主催のコメ産業懇話会でも説明会が開催され、ズームでも参加可能である。
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