稲作農業が継続できる道【小松泰信・地方の眼力】2025年2月19日
2月5日付の当コラムで、トラクターデモに関して「デモとパレードは大違い」と記した。すると、日本農業新聞(2月18日付)のコラムは、「行進」ときた。さらに同紙19日付は、「令和の百姓一揆実行委員会」が「3月に都内をトラクターで行進し、農政の転換を訴えるデモを計画」と両論併記? 「行進」がメディアの「後進」とならぬよう「更新」を願うばかり。

コメ政策をそのあり方から見直せ
コメ価格の高騰に対処するため、政府は2月14日、備蓄米を最大21万トン放出すると発表した。3月半ばから放出を開始し、同月下旬から4月上旬にもスーパーなどの店頭に並ぶ見通し。21万トンは主要な業者で不足している集荷量に相当する異例の規模で、江藤拓農林水産相は記者会見で、「インパクトがない数字を出しても仕方ない。市場や流通が正常化することを願う」と語った。まずは、価格高騰への効果の有無が焦点となる。
信濃毎日新聞(2月17日付)の社説は、「続く高騰の裏には、投機的な思惑で在庫を抱え込む流通業者の存在があるとみられている」とした上で、問題の根底にあるのは「生産調整(減反)で需要ぎりぎりの水準に生産量を抑えてきた政策」と指摘し、「複雑化した流通に政府がどう関与し、価格形成にどこまで介入するか。対症療法である今回の放出を機に、コメ政策をそのあり方から見直すべきだろう」と提言する。
求められる備蓄米制度の適切な運用
北海道新聞(2月15日付)の社説は、「生産者は資材価格の上昇などに苦しんでいる」として、「コストを反映した適正価格」を求めつつ、「主食であるコメの行き過ぎた高騰は見過ごせない」ことから、投機的な動きへの監視を含め、国の適切な関与によって、「生産者と消費者双方の理解が得られるよう、細心の注意を払ってバランスの取れた」備蓄米制度の運用を求めている。
また、放出に際しては値崩れを防ぐため、原則1年以内に政府が同量同品質で買い戻すことが条件となっている。それが引き金となって価格が乱高下することを懸念し、「生産者や消費者にしわ寄せが及ばぬよう、今後の運用では徹底したリスク管理が求められる」と注文を付ける。
さらに、「消費者や小売業者はコメ不足の慢性化を心配している」ことから、「生産調整に偏重してきたコメ政策を見直し、供給と価格の安定を両立させる道筋を議論する機会とすべきだ」と指摘する。
コメの値動きを注視せよ
「国民には食料品などの物価高が重くのしかかっている。家計の消費支出に占める食費の割合を示す『エンゲル係数』は2024年が28.3%で、43年ぶりの高水準だ」と、エンゲル係数から迫るのは秋田魁新報(2月15日付)の社説。
まずは、「中でもコメの高騰ぶりは突出し、24年12月の全国消費者物価指数でコメ類は前年同月比で64.5%も上昇した。価格は今後一層上がるとの見方が示されており、そうなれば生活への影響はさらに拡大する」と、消費者米価の高騰が生活を逼迫させていることを強調する。
他方で、「農家が資材高騰などのコスト高にあえいでいることも十分考慮しなければならない。コメの値上がりによって、ようやく一息つけたという農家は少なくないだろう」と、いかに生産者米価が低く抑えられてきたかを指摘する。そして、全国農業協同組合中央会が、備蓄米の放出に際しては「生産者の手取りに影響しないように」と、注文を付けたことを「当然だ」とする。
消費者、生産者、両者の立場を踏まえて、「主食であるコメの価格高騰は国民に与える影響が大きい。消費者も農家も納得できるような価格に落ち着くかどうか、目を光らせていく必要がある」と訴える。
コメ農家の所得補償制度の検討
中国新聞(2月15日付)の社説は、農林水産省が「『コメは足りている』として対策を打たなかった」、まさにその「お粗末な判断」が「今の米価高騰を招いた」と猛省を促し、適切な対応を求めている。
「コメ農家の6割近くが70歳を超し、60歳未満は1割強しかいない。担い手は近い将来に確実にそして大幅に減る」ことから、食料安全保障や自給率の観点からは、「むしろコメ増産に転換すべき時期にも思える」とし、「交付金の枠組みをやめ、政府がコメ農家の所得を一定に補償する仕組みに改める時ではないか。余剰米は途上国への支援や、飼料として活用し、給食や困窮家庭の支援へ回す工夫もあっていい」と、興味深い提言をしている。
「消費者にも農家にもいい顔をしたい従来の中途半端な政策には限界が見えている」として、「令和の米騒動」を機に、農政の抜本的見直しを求めている。
やっぱり「コメ管理制度」の創出
日本農業新聞(2月19日付)で、荒川隆氏(元農水省官房長)は、今回の政府備蓄米放出に「やむを得まい」と理解を示すとともに、生産者の立場を次のように代弁する。
「1995年に食管制度が廃止され政府買い入れ米価が最下限の米価の下支え機能を果たしていた時代が終わって以降、生産費を償える米価水準が実現したことは果たして幾度あっただろうか。自作地地代や家族労働費、自己資本利子などを含めた全算入生産費はもとより、実際の支払い生産費すら償えていない状況が長く続いている。結果として、誰も子どもに経営を継がせたいとは思わなくなっている」と。
備蓄米放出についても、「じゃあ、米価が下落し過剰基調の時は、政府が備蓄数量を増やして市場隔離をしてくれるのか」と。
しかし生産者の願いを実現させれば「食管時代への逆戻り」と続くのは、荒川氏の考えなのか、それとも古巣の代弁なのか。
「今回の事態を奇貨として、主食の米をはじめとする食料の安定供給について再度考え直し、わが国最古のなりわいである稲作農業が持続可能な形で継続できる道を探る国民的議論が必要だ」という締めを読めば、古巣への配慮と思われる。
生産者も消費者も納得する価格形成を市場に委ねるのは無理。「最低限、主食では国民を飢えさせない」という責任を有する政府こそが、責任をもって介入しなければならない。もちろん「食管赤字」は覚悟の上で。
そのアイディアについては、「コメ管理制度」として前回の当コラムで指摘した。
「コメ管理制度」で舗装されてこそ、パレードも行進も歓迎される「稲作農業が持続可能な形で継続できる道」となる。
「地方の眼力」なめんなよ
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