7年産主食用米高騰の弊害を考える【熊野孝文・米マーケット情報】2025年3月4日
JA全農新潟が25年産米(令和7年産米)コシヒカリの概算金2万3000円を提示したと報じられ(日本農業新聞3月1日号)、このニュースにコメ業界の関心が集まった。コメ集荷団体がまだ作付けも始まっていない段階で概算金を提示するというのは初めてのケースで、そのことについても注目されたが、何よりも関心を集めたのが提示された価格水準で、「最低保証価格」とされていることから、この価格が7年産米価の一つの水準になる。
7年産米の価格は逼迫する需給環境もあって、水面下で卸や商社等が具体的な価格を提示して産地と交渉しており、現状は価格の探り合いの段階だが、その水準によっては主食用米だけでなく加工原材料米、輸出用米まですべてに影響が及ぶことになる。
先月、千葉県で7年産加工用もち米の生産をどうするのか生産者や自治体、集荷業者、販売業者が集まって対策会議が開催された。この席で生産者組織の代表があいさつに立ち、コメの価格が急速に値上がりしていることに触れ、学校給食や病院給食が一番困っていると思うが、我々には実感がない。コメ不足の本当の原因は生産調整が55年間続けられた結果、100万戸の農家がコメ作りをやめたことにある。資材価格も高騰しており、加工用米の価格も見直しが必要だとした。集荷業者側からは、このままでは7年産米のうるち米やもち米の価格が下がらないとし、具体的な7年産米の価格に触れ、加工用米確保には「再生二期作」の導入も必要ではないかと言う意見が述べられた。また、自治体からは加工用米助成金額の加算額も示されたが、それによって生産者手取りを上げて主食用米の価格に近くなるには程遠い助成金額であった。
もち米の生産量は現在30万tでピーク時に比べ約半分になっており、このうち7万tが加工用米として制度米穀に位置付けられ、助成金を得て流通している。ただし、その販売価格は助成金が加算されても6年産では1万円台前半であり、現状は生産するメリットが薄れている。加工用もち米の需要者は包装もちやあられ、みりん業界が主だが、急激な値上がりが受け入れられず、需要者団体の中にはMA米枠で中国産やカル糯(モチ)の輸入を国に要請する動きもある。
加工用もち米の産地の中には、需要者団体側と価格交渉を行う際の基準として「10a当たりの最低所得」をベースにしていた産地もあった。助成金込みで10a当たり14万円の所得が確保できれば加工用もち米の生産に取り組むことにして、これを需要者側が受け入れたことから20年に渡り加工用米の生産が行われ、一大産地になった。ところが7年産については主食用うるち米の価格が急騰したことから「もち米の生産を止めうるち米の生産に乗り換える」と言う生産者が続出すると予想され、加工用もち米の大産地が崩壊する危機に面している。これは加工用米だけでなく、醸造用米(酒米)や輸出用米にも同じようなことが起きている。7年産輸出用米についてはすでに触れたが、台湾向け輸出を手掛けている新潟の生産者組織はユーチューブで台湾側との輸出交渉の模様を動画でアップ、その際、日本国内コメ価格高騰の現状を説明し、輸出価格を値上げせざるを得ないと理解を求めたところ台湾側から「良く日本では暴動が起きませんね」と皮肉を言われ頭を抱えるしかなかった。
このままでは国産原料米を使ってきた伝統的なコメ加工業界や輸出に取り組んできた業者にも供給面で致命的な影響が出る可能性がある。
こうした主食用以外のコメの生産と価格の安定を現行制度の中で図ろうとするなら主食用米とプールして手取り額を決める以外にない。その方法は、まず柱になっている主食用米の価格を事前に決定する必要がある。需要者側は加工原料米だけの契約では産地が応じないので、主食用米、加工原料米、輸出用米すべてを扱える商社や卸に委託して仕入れルートを確保することに合意する。委託を受けた商社や卸は、主食用米の購入価格を事前に確定するため先物市場で形成される価格を活用する。現在、7年産が受け渡しされる10月限、12月限の価格は2万8000円なので、この価格で産地側と事前契約することを基本にして、
産地側はこの価格を柱にして加工用米や輸出用米の価格を共同計算でプール計算して単価を決める。とも補償的な考え方で価格設定を行うことになるが、これは将来にわたり需要先を確保する戦略的投資と考えればよい。そうしなければ主食用米の売り先は何とかなっても加工原料米や輸出用米の売り先を失うことになりかねない。
それよりもこうした対策を講じないと必要な国産米が手に入らない現行制度を変えることの方が喫緊に求められており、生産者・需要者双方から声をあげるべきである。
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