【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「コメ騒動」の原因と展望~再整理2025年3月7日
備蓄米放出が発表されたが、コメ価格はさらに上昇している。コメの「不足感」が極めて大きいと言わざるを得ず、「コメ供給は不足していない。流通に問題が生じているだけ」との説明は、いよいよ無理が出てきた。
21万トンは「消えた」のではなくて、大手の集荷業者に集まらず、他に流れたのが21万トンあるということで、「誰かが隠している」と同義ではない。飲食業界などがコメ調達の懸念から農家からの直接買い付けを増やしていることなども大きいのではないか。
大手の集荷業者が集荷できなかった分を補充することによってコメが届くのは大手スーパーなどの流通ルートであり、町の米屋さんなどには行きわたらないとの見方がある。また、放出後、原則として1年以内に同じ量を買い戻すとしているので、結局、流通量は変わらないことが織り込まれる可能性もある。
流通悪玉論は本末転倒だ。「買いだめ」が起こっているとしても、市場関係者が「不足感」を感じているからビジネスチャンスとして様々な動きが出るのであって、それを誘発した原因はコメが足りていないことにある。その根底には、実質的に続けられてきた生産抑制政策と「畑地化」による水田潰し政策と時給が10円しかないような農家の疲弊に、暑さの影響(低品質米の増加など)も加わって主食米供給が減りすぎていることがある。
全国の現場の声を聞くと、2024年産米が豊作だったという作況指数に疑問がある。そもそも、①それほど収穫できていない、かつ、②低品質なコメが増えて、玄米から精米にしたときの歩留まり率が落ちている、との見方が多い。白いコメ、割れたコメ、カメムシ斑点米なども多いという。精米歩留まり率は、9割くらいが8割近くに落ちているとの情報もある。
米価が上がったといっても農家からすると30年前の価格に戻っただけで、やっと一息付けるかという程度で、すでに疲弊している現場の生産が一気に増えるのは難しいと流通業界も見込んでいる。水田を潰して現場農家の疲弊を放置する政策が続けば、趨勢的に「コメ不足」は続く。
「農協がコメ価格を吊り上げている」との見解も実態と乖離している。農協は今コメが集まらず困っている。共販で、概算金18,000円/60kg、あとで5,000円追加払いの見込みでも、農家は22,000円とかで即買いに来る業者に売ってしまいがちになる。
根底にあるのは、農家が赤字でやめていくのを放置して、減反要請を続け、田んぼを潰せば一時金(手切れ金)だけ払うからもうやめなさい、と誘導して、農村現場を苦しめてきたツケである。農業予算を削りたい財政当局の強い意志がある。
需要が減るから生産も減らし続けていくという政策を続けたら「負のスパイラル」で、日本の稲作とコメ業界は縮小していくだけである。日本農業の根幹と日本人の主食が失われ、一時的に輸入に頼っても、それが滞れば日本人は飢える。
生産調整から需要創出へ切り替えなくてはいけない。日本の水田をフル活用すれば、今の700万トンから1,300万トンにコメ生産を増やせる。コメ需要はないというのは間違い。備蓄が消費量の1.5 か月分では少なすぎる。備蓄は安全保障上の需要だ。小麦やとうもろこしの輸入が減るリスクも高まっている中、コメのパンや麺、飼料米を増やすのは安全保障上のコメ需要で、貧困層増大の下でのフードバンクや子ども食堂を通じたコメ支援も必要だ。備蓄とそれらを合わせたらコメ需要は膨大にある。
コメは余っているのに流通に支障が生じたから備蓄米を「活用」するのであって、足りないから「放出」するのではないと、つまらぬメンツにこだわり続けていたら事態は悪化するだけだ。備蓄米の放出ルールも明確化すべきだ。放出基準価格を2万円にし、買戻基準価格を15,000円としたら、その範囲内に米価が収まるように調整が働く。明確な数値の発動基準にして、関係者がそれを目安に動けるようにすべきである。
消費者もコメが高いと言うが、農家にとっても消費者にとっても30年前の米価に戻っただけである。30年前には、小売米価は5kgが4,000円以上していた。しかし、消費者にとっても所得も減る中で、急激に米価が上がって苦しいのは確かだ。今、農家にとっての適正米価と消費者にとっての適正米価が乖離している。増産を促し、下がった米価でも農家の所得が得られるように支援することで、消費者も安く買えるようにして、市場拡大する必要がある。緊縮財政の壁を打破して実現してほしい。
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