【今川直人・農協の核心】農産物需給見通しが示す農協の方向(3)2025年3月31日
食料安定確保と国際協力
農水省の「2050年における世界の食料需給見通し」は発表時の解説書の要約(「ポイント」)を次のように結んでいる。
『 多くの農産物を輸入する我が国としては、国内生産の増大を図りつつ、日頃から世界の農作物の需給状況や見通し等の情報を幅広く収集する必要がある。また、アフリカなど食料輸入の増加が見通される開発途上の国々に対して、生産性向上に向けた技術支援を継続的に行い、世界の食料安全保障に貢献することが重要である』
「国内生産拡大」は当然のことなので、安定的な輸入のための「情報収集」と「世界の食料安全保障のための技術支援」が趣旨である。対象を食料輸入の増加が見込まれるアフリカなど発展途上国と記しているのは国際協力(ODA)による技術支援を念頭に置いてのことであろう。
令和5(2023)年6月に、8年ぶりに開発協力大綱が改定された。改正大綱は開発協力の目的を①途上国の開発課題や人類共通の地球規模課題の解決、および②わが国と国民の平和と安全を確保し、経済成長を通じて更なる繁栄を実現するといった国益の実現に貢献すること、としている。途上国の民主化、法の支配、基本的人権の尊重、平和主義等、相手国の適正性の確保が引き続き重要である。大綱の実施原則は「相手国の開発需要及び経済社会状況、二国間関係等を総合的に判断して実施」としている。「国益」(目的の②)は改正大綱で初めて用いられた。
援助から国際協力へ
2019年5月、JICAと全中は連携協力基本協定を締結した(本紙2019年5月8日)。JICAのニュースリリースは①JAグループの知見で小規模農家が多い途上国の農村活性化を図ること ②農業従事者の減少という日本の農村の課題を途上国からの研修員受入等によって解決すること、の二つを意義としている。調印には外務省と農水省代表が立ち会っている。途上国の農協育成支援の需要に対する日本の対応力を再構築したいというJICAの事情が協定の背景と思われ、全中に仁義を切って各地で海外での指導者を募る仕組みがその後作働している。「途上国からの研修員」はJICAの技術指導で、短期は研修会、長期は学位取得が目的で、現制度では厚労省所管の技能実習生とは接点がない。食料問題を背景として、農協関係者の国際協力への関心は高い。この協定締結が政府開発援助を超えて国際協力の新たな芽となるよう、関係者の今後の努力が期待される。
2050年に備えもう一枚
太田寛一氏は農協史上最も創造的な人物の一人である。澱粉工場、馬鈴薯・種馬鈴薯の貯蔵・加工、一元集荷多元販売(牛乳)、よつ葉牛乳設立など、付加価値を高め農家手取りを増やす事業を戦前から戦後の早い時期に創設している。また、全農グレーンをはじめとする現在の全農の海外事業は太田会長の存在なしには考えられない。現在、食料や農業の問題が地球規模で解決を迫られている。農協は農業振興と国民の食料確保に大きな役割を期待されている。そして、地域的あるいは国内の活動が国際的動静の中で流動する。現在、農協は政府の要請と支援で農産物輸出に力を入れているが、途上国は輸出志向が強くとくにアジアの農業団体の関心事は日本への農産物輸出である。「輸入は商社」の姿勢が途上国と日本の農業にとってどうか、日本の農協が調整を迫られる課題の一つである。
農協のバーゲニングは全農の元イトーヨーカドー社長戸井和久氏招聘で姿を変えつつある。海外に多くの生産拠点を持つ日本の種苗会社のカントリーリスクの回避(中国に韓・越を)、商売のリスク回避(同地域に敢えて複数国)は巧みである。農協界に、もう一枚、国際的視野と問題解決能力を有する人材が欲しいところである。
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