コメの「転売ヤー」として巨利を得たのは誰か?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月8日
農水省が言うところの「流通の目詰まり」を解消するための2回にわたる政府備蓄米売却が先月末終わった。目詰まりを証明するために農水省は先月末全農等大手集荷業者を通さないコメが前年1月に比べ44万トン増えたとの調査結果を公表した。専門誌等によると、記者から「目詰まりではなく流通ルートの多様化では?」と訊かれたのに対して農水省の担当課長は「多様化しているルートから流れているのであれば、今のような価格動向や、これくらいの規模感での偏差にはならないだろう。確かに徐々に多様化していく中での流れだが、今回まとまった量が従来とは別のルートにシフトした。従来のチャンネルで仕入している人からすると従来の仕入れルートが詰まっているわけであり、分散することで人のところに行っていないアンマッチが生じている。我々はこれを目詰まりと表現している」と答えたと記されている。ジグゾーパズルのピースを埋めるような回答だが、こうした目でコメの流通を見ている限り今日のコメ不足騒動が沈静化するには時間がかかりそうだ。
「令和のコメ騒動」の原因については未だに様々な説が取り沙汰されているが、こうした説が様々に流布される要因は、農水省が目くらましのように様々なデータを出すことにも一因がある。その意味では、今回の大手集荷業者を通さないコメの流通調査も同じ類である。その量が44万トンもあったと公表されれば、コメの流通が良くわからない人はその分が隠してあったと勘違いしてしまう。勘違いするだけならまだしもそうした流通を「違法」と言う学者先生もいるのだから驚くほかない。コメの集荷、流通は誰でも自由に行えるのであって全農の専売特許ではない。全農系統が集荷した6年産主食用米の集荷数量は155万トンで前年産より30万トン少なかった。その分が他の流通ルートに乗っただけの話であり、どこかにコメが隠されていたわけではない。
令和のコメ不足の原因は、一昨年までさかのぼり、令和5年産の生産量が661万トンであったのに対して需要量が705万トンあり、44万トンの不足が生じたことがそもそもの発端である。その年の11月にはコメ加工食品業界、中食・外食団体や米穀小売店業界からコメ不足対策が農水省に要請されたにも関わらず、何らの対策を打たなかったことが今日の事態を引き起こした原因になっている。実際、44万トンと言う数字は今年1月末の民間在庫が昨年1月に比べそのまま44万トン少ないというデータにも表れている。コメの需給は、前年度の在庫プラス当該年の生産量マイナス次年度への繰り越し在庫イコール需要量という式で表されるので、令和5/6年度の需要量がいきなり44万トンも増えて705万トンになったのではなく、生産量が661万トンもなかったと見るのがまともな見方だと言える。さらに翌年に主食用米の価格が上がったにも関わらず、飼料用米から主食用米への転換が予想の半分しか進まなかったことも大きな誤算になった。このことは生産現場が予想以上に疲弊していることの現れであり、7年産米の作付けに当たっても主食用米増産そのものに対して支援措置を講じなければ、コメ不足を解消するような増産にはならないことも想定される。
農水省はコメの目詰まりを言う前に盛んに投機目的でコメを買い占めているところがあると言っていた。これが波及してネット上では「転売ヤー」という文言があふれたが、転売ヤーで最も利益を上げたのがほかならぬ農水省である。農水省は備蓄米売却を「会計法と財政法に則って行う」と財務省の下請け機関のようなことばかり繰り返し言ってきたが、その結果、今回の政府備蓄米売却でおおよそ280億円もの巨利を得たことになる。その式は、5年産政府米買い入れ価格は1俵1万2200円、6年産米は1万3800円であった。それを2万1000円で売却したのだから平均で1俵8000円儲かった。8000円×350万俵で280億円になる。真の転売ヤーは農水省であり、その財源はもちろん税金で、さらに国民に高いコメを押し付けたからそれだけ稼げたのである。
さらに備蓄米の流通をややこしくしているのが全農から卸へ売り渡す際のルールである。全農米穀部が販売先の備蓄米買い受け卸に配布したA4判23ページの「条件付備蓄米のお取扱いについて」と題する冊子には、様々なルールが定められている。例えば①玄米販売の禁止では、玄米売、精米買いが発生する場合は禁止、さらには卸が第三者に玄米で販売されものも禁止と図入りで示している。驚くべきは実需者が玄米を消費者に売ることも禁止されている。他の禁止事項は省略するが、備蓄米の流通にこれほどまで禁止事項を付けるぐらいなら、農水省は最初から120社も登録している「政府備蓄米買い受け業者」に直接売却した方が需給緩和効果があったはずである。
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