【浅野純次・読書の楽しみ】第108回2025年4月15日
◎舛友雄大『潤日(ルンリィー)』(東洋経済新報社、1980円)
登場する中国人はほとんどが中国で中流から上の生活をし、億円単位の資産を持っている人たち。そんな富裕層の日本移住が今、急増している実態を丁寧に追っていますが、思わず引き込まれる話が多く興味津々です。
書名の潤は中国語でルン、中国を脱出する人々を指す単語で、英語のrunと同じピンインなので盛んに使われています。潤日は「日本へ逃げる人」ということになります。
著者はたくさんの中国人と会い、彼らの中国での生活、日本に移住する目的、日本での生活などを詳しく聞き出して記録しました。
彼らの多くは都内の超高級タワマンに住み、子弟はインターナショナル校に通っています。日本で起業した人、中国での事業を続けている人、当分のんびりしている人、さまざまですが、みな日本が気に入っています。
自由で安全な社会、安い物価、博士や修士号を取りやすい教育環境、豊かな自然(きれいな空気も)は中国にはないものだと口をそろえて言います(日本語の壁は問題ですが)。
ともあれ豊かな中国人移民の激増は日本社会に大きなインパクトを与えていくこと必定です。現実を正しく理解する必要性は増す一方でしょう。彼らとどう共存していくか、一読をお勧めします。
◎内田樹・山崎雅弘『動乱期を生きる』(祥伝社新書、1122円)
日本はじり貧をたどるしかないのではないか――対談者たちの危機意識は強烈そのもので、「底の抜けた国」日本の厳しい分析から話は始まります。
まず倫理的崩壊です。大手メディアの敗北とSNSの圧勝はなぜ起きたのか。後者のいわゆるインフルエンサーは複雑な現実を単純な図式に落とし込んで受け手の負荷を軽くしてくれる。一般大衆はその受け売りをしていればなんとかなる。まともなことを言う人がいたら「それって個人の感想ですよね?」と返せばいい。そして暴論や詭弁が幅を利かせる世の中なのだ、と。
続いて民主主義の崩壊、教育システムの機能不全、戦争に歩み寄る世界と日本など、二人の息はぴったりです(多少は論争も聞きたいくらいですが)。
なぜこんなひどいことになったのか。結局は安倍政権の頃からの政治の劣化が一番の原因とされます(もちろん選ぶ側の責任もですが)。でもあきらめてはいけない、それこそが事態をさらに悪化させていくのだと前向きな姿勢が強調されます。
◎長尾和宏『歩く人はボケない』(PHP新書、1100円)
「町医者30年」の著者が書いた健康本には以前からお世話になってきましたが、今回も大いに参考になりました。結論は「スキマ時間をちょこまか歩くだけで十分」なのだとか。大げさにさてウォーキングだ、などと力まなくていいということで気楽に始められます。
歩くことを苦行と考える人も多いとかで、著者は歌いながらリズムに乗って歩くことを勧めています。そして看板や表札を見、風景を楽しみ、自動車ナンバー4桁で遊ぶ、などを提案しています。
そして歩くことでアイデアが浮かぶ、肥満防止や美容に役立つ、自然免疫が高まる、などのプラスが期待できるそうですが、一番は認知症予防です。
認知症そのものについても詳しく説明されていて、これが本書の中心テーマですが、歩くだけで認知症が防げるなんて朗報です。認知症の心配が出始めた知人に教えて喜ばれましたが、いやあ、私もいい本に巡り合えてほんとによかった。
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