ふたつの「米騒動」【小松泰信・地方の眼力】2025年4月23日
「米(コメ)か米(ベイ)どちらで読んでも米騒動」(八尾 ウコタン、毎日新聞4月22日付・仲畑流万能川柳より)
合体するふたつの「米騒動」
案の定というべきか、ウコタン氏が吐いたふたつの「米騒動」が合体しそうな風向きである。
日本経済新聞(4月20日付)が、対米関税交渉の材料として政府内で米国産米の輸入拡大案が浮上していることを伝えている。赤沢亮正経済財政・再生相が16日(日本時間17日)におこなった、米国のベッセント財務長官、ラトニック商務長官、グリア通商代表部(USTR)代表との閣僚協議での、主要テーマのひとつが農産品。米側が問題視する非関税障壁の筆頭がコメ。日本市場について「規制が厳しく不透明で米国の輸出業者の消費者へのアクセスを制限している」と批判したとのこと。
この流れから、日本側の交渉カードのひとつとして、米国産米の輸入拡大案が浮上した。背景には、「令和の米騒動」で国産米の品不足と価格の高止まりで輸入米の需要が増していることがある。政府内に「国内の不足分を一時的にでもまかなえればいい」との声も上がっていることも紹介している。
コメを差し出せという日経と読売
早速といって良いだろう。同紙(4月22日付)の経済コラム「大機小機」は、無駄な歳出を削減し「小さな政府」を目指すことを「ゆ党」に提言する。無駄な歳出の典型が農業政策。「膨大な補助金を農業生産のためでなく、食用米の減反で価格を引き上げる生産者利益のために用いている」と指弾する。さらに、「農協主導の減反カルテルの行き過ぎが、今回のコメ価格高騰の主因である。この減反政策を、今年の田植え時期までに見直さなければ、今秋の新米の価格も高止まりとなる公算が大きい」とし、「コメの減反補助金を止めれば、増産で価格が低下する。増産分を輸出に回せば、大規模農家の収入は増え、若者の雇用増で農村は活性化する。コメの輸入関税も撤廃でき、トランプ米大統領への交渉材料ともなる。零細農家の損失には、時限的な直接補助金で対応すればよい」と、唖然とするほどの単純な理屈を並べ立てて、コメをトランプに差し出すことを提言している。
読売新聞(4月22日付)の社説も、「日本は同盟国として、米国に協力できる部分は協力していかなければならない」として、「日本国内でコメが不足している現状をみれば、無関税の輸入枠であるミニマムアクセス米の拡大は一案だ」と、こちらもまた日本の稲作農家よりもアメリカを思いやる。さすが、植民地日本で一番の発行部数を誇る全国紙。
含みを残す農林水産大臣
共同通信(4月22日10時23分配信)によれば、江藤拓農林水産大臣は22日の閣議後記者会見で、日米関税交渉で米国側が問題視しているコメの輸入枠について、米国産などの主食用の輸入を拡大することに懸念を示した。農家が生産意欲をなくし、国内生産量が大幅に減少するなどの影響が出てくる恐れがあると指摘し、「主食を海外に頼ることが国益なのか、国民全体として考えていただきたい」と述べたそうだ。
ただし江藤氏は、米国側から受けた農林水産品に関する具体的な要求内容についての回答を控えた上でうえで、要求によっては日米貿易協定の見直しに踏み込む可能性があることから「政府としてどう判断するかは極めて厳しい」と含みを残している。
現時点では、農相として国内農業の保護を優先する姿勢を示してはいるが、前述したようなコメ開放勢力にどこまで抗しきれるか疑問符がつく。
各国の不満や米国世論の不安を味方に
米どころ秋田県の秋田魁新報(4月22日付)の社説は、「2019年の第1次トランプ政権との日米貿易協定で、日本は輸出で2.5%の自動車への関税が上乗せされるのを回避した一方、農業分野の輸入では米国産牛肉や豚肉などの関税が下がり、畜産農家にとって厳しい結果となった経緯がある」ことを紹介し、コメを含む農産物の市場開放を譲歩すれば、当然農家に打撃を与えることから、「食料安全保障の観点からも譲れない」とする。
山陽新聞(4月22日付)の社説も、米国が、日本はコメに「700%」の関税を課していると主張していることを取り上げ、「これは過去の数値であり、現在の市場価格で算出すると大幅に下回る」と指摘する。また、「これまでの貿易交渉を通じて日本はコメに一定の無関税輸入枠を設けるなど、市場開放に取り組んでいる」として、「従来の合意を無視して米国が一方的に譲歩を求めることは、理不尽であり受け入れ難い」と怒りを隠さない。
最後に、米国内でも、高関税政策が物価上昇や景気後退につながる恐れがあることから出てきている慎重論を巧く利用して、「各国の不満や米国世論の不安を味方」につけた、戦略的交渉を提言している。
「大騒動」に巻き込まれぬために
西日本新聞(4月20日付)で永田健氏(同紙特別論説委員)は、トランプが「米国車が日本で売れないのは非関税障壁のせい」と主張していることに対し、「どうして同じ条件の欧州車は売れているのか」といなしてみせる。
「自動車や電化製品、食料品の規制や規格には、その国独自の事情や価値観が反映されるのが常である。農産物には食料安全保障の視点も必要だ。それを全て不当な障壁と決めつけるのは勝手過ぎる」と、その責任転嫁を指弾する。
「日本で米国製の銃が売れないのは、日本の銃規制が厳し過ぎるからだ。日本の銃規制を米国並みに緩和しろ」
「日本で米国製の兵器をもっと売りたいが、日本の専守防衛の方針が障壁になっている。非関税障壁である憲法9条をなんとかしろ」と、言い出すのではないかと危惧している。少なくともわが国において、この危惧は杞憂では終わらない。
琉球新報(4月19日付)の社説は、米国が「自由貿易体制の盟主の座を降り、高関税を振り回して貿易戦争を仕掛ける様は経済秩序の破壊者のように見える。第2次大戦の遠因となった極端な保護主義政策による国際的な経済対立の再来を各国は恐れている」ことから、日本の責任の重さを指摘する。
そして、安保条約は決して片務的ではなく「安保条約や日米地位協定に基づき、日米の軍事一体化が進んでいる。そのひずみを沖縄は押し付けられている」として、「駐留経費の増額に応じてしまえば外交・安全保障面での米国依存が高まり、基地固定化にもつながる。それは基地負担軽減を求める県民の願いに逆行する」と訴える。
ふたつの「米騒動」に端を発した「大騒動」に巻き込まれぬためには、独立国として毅然とした姿勢で米国に対するしかない。
「地方の眼力」なめんなよ
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