「ファースト」無用に存じます【小松泰信・地方の眼力】2025年7月23日
「ほんまに国会議員ゆうがは、選挙中は国民のためにって耳にタコができるばあ言ゆうくせに、当選したら自分のためにしか動かんがやき!」とは、戸田恵子演じる薪鉄子議員(NHK朝ドラ「あんぱん」7月22日)
被差別体験者からの教え
昔から、選挙期間中の公約や主張のすべてを鵜呑みにしてきた訳では無い。かなり斜交いに構えて聞いたり読んだりしてきた。だから、「公約と違うじゃないか!」と怒ったこともほとんどなかった。しかし、今回の参院選では、「その公約や主張、絶対に守らんといて!」と、叫びたくなるものが少なくなかった。
その最たるものが、「日本人ファースト」である。
毎日新聞(7月23日付)で小国綾子氏(同紙オピニオン編集部)は、10年以上前にアメリカのレストランで受けたあからさまな被差別体験から、大切なことに気づかせてくれている。
「なぜか全然注文を取りに来てくれない。お店は繁盛していて、接待係のスタッフも忙しそうだ。だから、しばらく静かに待っていた。なんかおかしい、と気付いたのは、私たちよりも後からやってきた客が注文を取ってもらっているのを見た時だ。(中略)夫が硬い表情で『出ようか』と言った。私も黙ってうなずいた。息子が不思議そうに言った。『なぜ?』」
「差別? 違うよ。ここはアメリカなんだから、『白人ファースト』は当然でしょ」と、スタッフの心の内を表現したあとで、「今回の参院選で躍進した参政党の掲げる『日本人ファースト』、という言葉を初めて聞いた時、そしてその言葉に喝采する人の姿を見た時、私は日本でともに暮らす、海外ルーツを持つ友人知人がどんな思いでいるだろう、と胸が締め付けられた」と、心境を吐露する。
「家族で席を立ち、幼い息子を守るように店を出るまで、体がとても緊張したこと。あれは恐怖だったのか怒りだったのか。もう一つは、あの時、あの店にいた大勢の客の誰一人、私たちに一言も声を掛けてくれなかったこと。正直、私たちを無視したスタッフの行為自体より、そのことの方が胸にこたえた。ただ、心細かった」と記している。
了解しました。当コラム、異国の地で「心細さ」に耐えながら暮らしている外国人がいることを忘れません。
差別や偏見を助長
地方紙(7月22日付)の社説も、参政党が声高に叫ぶ「日本人ファースト」に疑問符を投げかけている。
「『日本人ファースト』を掲げた参政は、外国人政策を争点化し、若者や保守層に食い込んだ。参政党の躍進は、グローバリズムに対する反動としての『自国第一主義』や『反リベラル』の潮流が日本にも押し寄せてきたように見える。参政党の手法は、断定的な言葉遣いで有権者に直接訴えかけるポピュリズムの政治手法そのものである。(中略)外国人への差別や偏見を助長するような主張を見過ごすことはできない。(中略)主張の正当性を強調するため、外国人を悪者のように扱う。そのような主張がSNSで拡散されると、怒りの感情が広範に広がりかねない。危うい現象だ」(沖縄タイムス)
「『日本人ファースト』を前面に掲げた参政党の伸長は全国的な傾向だ。だが外国人差別と取れる発言などもあり、社会に分断と対立を生じさせる事態は避けなければならない」(秋田魁新報)
「参政が掲げる日本人ファーストの主張は一定の支持を集めたが、排外主義につながる懸念がある。『敵』をつくって危機や不満をあおるやり方が分断を深刻化させることは、海外の例を見ても明らかだ」(北海道新聞)
「参政は『日本人ファースト』を前面に掲げて支持を拡大した。外国人受け入れを問題視し『日本は日本人で支える国に』と訴える一方、外国人差別や女性蔑視と受け取れる代表の発言が物議を醸した。反移民など欧米各国の排外主義、ポピュリズム政党に似た流れを危惧する専門家の見方もある。そうした動きが台頭する危うさはないか、今後の姿勢も注視すべきだろう」(高知新聞)
瞠目すべき丸山島根県知事の見解
この問題に関して、島根県の丸山達也知事は15日の定例記者会見で、瞠目すべき見解を披瀝した。骨子は次の通り。
・日本人も外国に住むことがある。その時、外国で不合理な扱いをされないためにも、日本は自国民と外国人を公平に扱うことが必要。近視眼的に外国人を排除する、外国人を排除して行けば、この社会が良くなるという風に受け取られかねない言説、主張がなされてることについては大変憂慮している。日本人も国際社会の中で生きていることを忘れてはならない。
・この流れが、参政権なき外国人に向けて、弱者排除、弱者差別という側面を有していることにも危惧している。戦前に共産主義者を弾圧するという名目でなされた厳しい取り締まりがどんどん拡張していったように、悪いことのスタートは小さく始まり、拡大していくもの。弱者としての外国人排除を許すことは、それ以外の弱者の排除を許すことにつながる。
・島根県は地域的な立場でいえば弱者である。県内企業は中小企業で経済的立ち位置は弱者である。外国人を切り捨てれば良いとの言説は、我が身に返って来る。
・そもそも、外国人への行政サービスをカットして、日本人が豊かになろうということよりも、負担能力がある大企業に対して課税を強化していこう、という政策論争こそすべきである。強いものに向かっていくのが政治である。
安倍一強体制の負の遺産
ここまで書き進んだとき、「日米関税交渉で合意」の速報が入ってきた。詳細は不明だが、農業には逆風の恐れ大。
さらに、石破茂首相が、自民党が8月にまとめる参院選の総括を踏まえ、同月までに退陣を表明する意向を固めた、という速報も入ってきた。当コラムのネタは尽きない。
毎日新聞(7月23日付)によれば、村上誠一郎総務相が22日の記者会見で、今回の選挙結果について、「本当に石破さん個人の責任だったのか」とした上で、派閥の政治資金裏金問題や旧統一教会問題を挙げ「自民党が十数年やってきたことのいろんな問題が今回噴き出したのではないか」との見方を示し、「石破さんだから、今までの負の遺産を背負いながらここまでやってこられたと心底思っているので、私はできる限り一生懸命支えていきたい」と語ったそうだ。
安倍一強体制の計り知れない負の遺産。それを背負った石破氏。他人事然とした安倍の子分連中の言動もまたネタとなる。
「地方の眼力」なめんなよ
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