需要に応じた生産とは何なのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年10月28日
今後のコメ政策の基本は「需要に応じた生産」が基本なるらしい。この表現は受け取り方によって全く意味あいが違ってくる。関東のある県の集荷団体はこの表現について「当県は主食用米の需要があるからその需要に応じて生産する」と言っている団体もあれば「主食用米の需要は減っているのだから生産を減らす」という集荷団体もある。どちらも正解なのだからこの「需要に応じた生産」という表現は捉え方によって違ってくる。

今週開催される予定の食糧部会に農水省が提出する予定の「米の需給見通し」に令和7/8年主食用米等需要量について以下のように記されている。
▽令和7年6月末民間在庫確定に伴い令和6/7年主食用米等需要量の確定値により、1人当たりの消費量(精米ベース)を更新(前回;50.1~50.7kg/1人→今回;50.2~50.8kg/1人)
▽上記で算出した1人当たりの消費量の最大値について、直近のとう精数量の実績に基づき補正(50.8kg/1人→50.7kg/1人)
▽令和7年人口(推計値)を令和7年人口(9月概算値)に更新(前回;123,220千人→今回123,170千人)
また、1人当たりの消費量(精米ベース)をどのように算出したのかも記されている。
それによると①:直近5年(令和2/3年~6/7年)の需要実績(精米ベース)からの当該年のインバウンド需要を減じたうえで、当該年の人口で除し、各年の1人当たりの消費量(精米ベース)を算出、②:①で算出した直近5年間の1人当たり消費量の平均値と最大値を幅を持って設定し、これを基に需要見通し(精米・玄米ベース)の算出をしている。
これについては①:直近5年間の1人当たりの消費量の「平均値」と「最大値」について令和7年の人口(推計値)を乗じたうえで、令和7/8年のインバウンド需要(試算)を加え、需要も通しを策定、②:①で算出した精米ベースの需要量見通しについて、精米歩留まりの直近5年間の実績ベースの幅(直近5年平均値、直近5年最低値)をもって玄米換算-したとしている。
参考としてインバウンド需要の見通しも記されており、令和3/4年はわずか1000tしかなかったが、年を追うごとに増加、令和6/7年は5万7000tに、令和7/8年では6万1000tまで伸びると予測している。こうしたこまごまとした数値を用いて算出した令和7/8年の需要見通しは、玄米ベースで697万t~711万tになると幅を持たせて数値を示している。
需要面での算出方法もかなり複雑だが、供給面でも新たな要素が加わり複雑さを増している。それは「ふるい下米の流通」で、この中に「生産者ふるい目幅未満のうち主食用供給見込」として32万tという数量が記されており、この数量が需給見通しの供給としてカウントされていることには驚いてしまった。需給見通しを玄米と精米の2本立てで示し、さらにふるい下米まで需給にカウントしたものを食糧部会で示すのだから出席する委員は理解できるのだろうか心配になって来る。
ふるい下米の流通については、〇収穫されたコメは、籾摺り・調整して「玄米」になり、玄米は「ふるい」で選別され、ふるい上に残ったコメは主食用として流通し、ふるい目から落ちたコメは「ふるい下米(特定米穀・無選別)」と呼ばれ、さらに選別されて、主食用や加工用途(米菓、味噌、焼酎、穀粉等)として利用。
〇主食用の引き合いが強い場合や価格が高い場合には、主食用に多く流通する傾向がある。
〇ふるい下米の用途別の販売量等を把握するため、今後、米穀加工業者を対象に調査を行う。-としている。
以前、このコラムでも指摘したようにふるい下米はその時の市況動向によって需要先が変わって来るので、判で押したように1.85mm下のふるい下米32万tが主食用に供給されるわけではない。
このことはふるい下米だけの話ではない。コメの需要を主食用と非主食用に分けて流通を規制すること自体に弊害があるだけでなく、需要に見合った生産という概念そのものが存在しようがないのである。需要とはその時の環境によって大きく変化するもので、特に価格によって変化する。従って「需要に応じた生産」なる言葉を用いて生産の目安数量を示すような先祖帰りの政策をしていたのでは再びコメ不足騒動が起きる。
こうした政策を止め「需要に応じた増産」に舵を切ったのだから、まず、行うべきは「用途限定米穀」という流通規制を撤廃し、どのような用途であろうとも自由にコメが供給できるようにしたうえで公平で自由な現物市場を創設し、先行きの価格がわかり価格変動に対してリスクヘッジが出来、当業者にとっても使い勝手の良い先物清算市場を整備することこそが今、求められているのである。
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