【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者も消費者も苦しい ギャップを埋める政策が不可欠2026年1月15日
国連の飢餓地図の衝撃
今回のコメ騒動を大きくしたのは、消費者側にも要因がある。国連の飢餓地図(FAO HUNGER MAP)を見ると、2019-21年の値では、なんと日本は、アフリカの国々などと並んで、栄養不足人口の多い国に分類されている。
飢餓国の仲間入りを果たしてしまったのだ。先進国で唯一だ。つまり、日本はもう先進国ではないのだ。日本が飢餓に陥るのではなく、すでに日本は飢餓国なのだと言ってもおかしくないのだ(拙著『もうコメは食えなくなるのか』講談社新書 p.102-103、https://www.fao.org/fileadmin/templates/SOFI/2022/docs/map-pou-print.pdf 但し、2019-21年以降の図では日本は「no data」になっている。FAOのデータは各国が提出するデータを基に作成されている。日本は、「不都合なデータ」と判断し、最近年のデータの提出を取りやめた可能性がある)。
5kg2,000円のお米に、東京では何百人も並んだ。「そんな馬鹿な」と思ったが、実は、そういう状況になっているということだ。実際、この30年間で国民所得(中央値)は140万円も減少している(1993年の550万円に対して2023年は410万円。拙著『もうコメは食えなくなるのか』講談社新書 p.105)。そういう状態になっていることが、今回のコメ騒動を大きくしたのだ。
「石破ビジョン」のコメ需給モデルを再活用しよう
だから、農家も苦しくなっているが、消費者も苦しくなっている。両方苦しいという状態に追い込んだ政策をどう変えるかが大きな、根本的な問題だ。コメについては、このことが適正米価のギャップに如実に表れているので、まず、それを埋める政策が必要だ。
筆者は、毎日のように全国を回っているが、かなりの大規模農家でも、現在のコスト高では、60kgで25,000円くらいは必要だとの声が非常に多い。消費者価格レベルでは、5kgで3,500円くらいだ。一方、消費者では、5kg 2,500円くらいが助かるとの声が多い。
だから、この差を埋めればよいのだ。それを精緻に検討するには、コメ需給の計量モデルによるシミュレーションが必要だ。実は、農水省には、2009年に、「石破ビジョン」で農家の目標米価と市場米価の差額を補填したときの財政負担額を計算するために構築した計量モデルがある。拙著『現代の食料・農業問題〜誤解から打開へ』(創森社、2008年)のモデルを拡充したものだ。
2009年の「石破ビジョン」は拙著『もうコメは食えなくなるのか』(講談社新書、2025年、p.78-89)に全文、収録している。当時とは価格やコストも大きく変化しているが、現状に合わせて改良すれば、モデルは再利用できる。
「コメを作るな」と政府が命令する権限はない。どれだけ作るかは農家の経営判断だ。米騒動を再燃させないためには自由に生産してもらい、需給にゆとりを持たせ、消費者は安く買え、農家のコスト割れを回避する対策と、「国防」上の備蓄積増しも含めた出口対策を講じるべきだ。
消費者と農家の適正米価のギャップを埋める支払いがwin-winの政策だと筆者は提言し続けているが、鈴木農相は「米価が下がっても農家の所得を支える直接支払いはしない」と明言し、その代わりに「コメを作るな」と要請している。予算を渋り、減反を強化するのは愚策だ。これでは元の木阿弥だ。
農水省には、もう一度、コメ需給の計量モデルも活用して必要予算額を試算して、具体的な予算要求に一歩踏み出してほしいものである。
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