「花がなくてもかまわない消費者」にどう向き合うか【花づくりの現場から 宇田明】第81回2026年3月19日
花の2025年統計データが相次いで公表されています。
内容はきわめて厳しいものです。
現場の肌感覚では、生産・流通・小売のそれぞれで前年対比10%以上の落ち込みです。
しかし、この前年割れは今に始まったことではありません。
1990年代半ばから、30年近く続いています。
この30年間は、いわば「ゆでガエル」の状態でした。
ぬるま湯に浸かっているうちに少しずつ温度が上がり、気がつけばゆで上がってしまう。
しかし途中では危機に気づきにくい。
花産業もまた、「そのうち何とかなるだろう」と、どこかで高をくくっていました。
ところがコロナ禍を経て、ようやく多くの人が「お湯の熱さ」に気づき始めたようです。
なぜ30年も坂を下り続けたのでしょうか。
理由は単純です。花の需要が減り続けてきたからです。
その背景には、「花がなくても困らない人」が増えたことがあります。

総務省の家計調査を見ると、この傾向は明確です。
一年間に切り花を購入した世帯(二人以上世帯)の割合は、2000年には41%でした(図)。
ところが2025年には28%まで低下しています。
言い換えれば、花を買わない世帯が6割から7割へ増えたということです。
この7割の人たちは、いわば「花の下戸」です。
「下戸」に酒を売るのが難しいように、「花の下戸」に花を売るのは簡単ではありません。
花の癒やし効果や美しさをいくら訴えても、関心がない人の心には響きません。
では、熱さに気づき、お湯から飛び出したカエルはどうすればよいのでしょうか。
この点で参考になるのが、長期的に市場が縮小しているビール業界の戦略です。
ビール会社は、「酒好き(ヘビーユーザー)にもっと飲んでもらう」という基本戦略に加え、「下戸(に近い人)」を取り込む戦略を展開しました。
酒が飲めない人や弱い人、運転者に向けてノンアルコールビールや低アルコール飲料を開発し、それまで市場の外側にいた人たちを取り込んだのです。
ここから花産業が学ぶべきことは明確です。
まず、花好きのヘビーユーザーを大切にすることです。
確かに花がなくても困らない世帯は7割に達しています。
しかし見方を変えれば、花好きが3割もいるということです。
花を飾る習慣があり、花を贈る経験もある人たちに、もう少し多く花を買ってもらう。
これは、花の下戸に花を売るより、はるかに現実的な戦略です。
この花好きの多くは60歳以上の高齢者です。
花の目利きで、接客を重視します。
コストパフォーマンスだけでなく、季節感や鮮度(みずみずしさ)、つまりつぼみの多さなどを大切にします。
こうした顧客の期待に応える売り方を改めて見直す必要があります。
一方で、花の下戸にも花のある生活を体験する機会をつくることが重要です。
酒の下戸は体質や健康、宗教、生活信条などに関わる問題であり、供給側の努力だけで変えることは難しいでしょう。
しかし花の下戸は違います。
花を飾った経験がない、花屋に入ったことがない、花を買う理由がない。
つまり経験の不足なのです。
花の下戸を花好きに変える鍵は、「成功体験」をつくることです。
その代表的な取り組みが「花育」ですが、教育的な取り組みだけでは十分とは言えません。
むしろ卒業式で先輩に小さな花束を贈る、あるいは贈られるといった体験こそ、花好きになる入口です。
しかも卒業式は花を買う明確な動機にもなります。
そのためには、花屋の側に工夫が必要です。
価格を明示する、
用途別の商品をそろえる、
ネットでも注文できるようにする。
こうして花屋に入る心理的ハードルを下げることが重要です。
こうした小さな成功体験が、花を買う習慣を生みます。
そして、その積み重ねが「花の下戸」を花好きへと変えていくでしょう。
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