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飲用に使われた桜とニセアカシアの花【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第381回2026年3月19日

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私の子どものころ(戦前昭和、80数年も前の話になるが)、何故だったか忘れたが、祖母が湯呑茶碗に塩漬けした桜の花を一、二輪入れてお湯を注ぎ、「桜湯」だと飲ませてくれたことがあった。八重桜と思われる花がお湯の中で開き、お湯は薄い桃色(いや濃い桜色というべきか)に染まっていて、きれいである。
 飲んでみた。しょっばい。しかし、何か変わった匂いと味がする。これが桜の花の味、香りなのだろうか。特別おいしいわけではない、飲めないものでもないが。
 なぜこんなものを飲むのだろうか。ちょうど戦中でお茶も配給、お茶不足を補うために茶の代用品として飲むのだろうと私は思っていた。
 それにしても桜の花の塩漬けをどこから手に入れたのだろうか。生家の屋敷内には桜の木はなく(桜桃=サクランボの木はあったが)、花を摘んで漬けることはできないからである。買ったかもらったかしたのだろうが、さだかではない。
この話を宮城県南出身の家内にしたら、家内の祖母は自分で桜の花を摘んできて小さな壺に塩漬けしていたという。山の畑のところに八重桜があるのでその花を採ってきて漬けたのではなかろうか、ときどき壺を出してきて桜湯にして飲んでいた、と家内はなつかしそうに話す。

戦後、私の中学生のとき、叔父の結納の名代(みようだい)で叔母(後の)の実家に行ったときだった、桜湯が出た。しばらくぶりで飲んだ。この話を家に帰ってしたら、おめでたい席の時は桜湯を飲む慣習があるのだと言う。大昔、緑茶がなかった時代、桜湯を飲むのが習慣だった、とくにめでたい席、来客のときに桜湯を出した、その伝統にのっとっておめでたい席では古来の桜湯を飲むのだというのである。なるほどと納得したものだった。
ところが通説は違っている。「お茶を濁す」などに使われるお茶という言葉を使うのを避けるため、おめでたい席では桜湯を飲むのだというのである。
 それでも私は生家の説をとりたいと思っている。通説はこじつけのような気がするし、古来の伝統という私説の方が床しく、きれいに思え、またあり得るとも思えるからである。
それはそれとして、家内の祖母の家のように、特別な行事のときばかりでなくて日常的に桜湯を飲む慣習のある地域や家があったのではなかろうか。お茶の葉の穫れない地帯、高価だった時代にはとくにそうだったと思えるのだが、どうなのだろうか。

なお、この桜の塩漬けは桜湯としてばかりでなく、料理にも使われている。料理屋などでお吸い物や酢の物のなかに入れたりするし、ご飯に桜の塩漬けを混ぜて桜ご飯として出す地域があるとの話を聞いたこともある。

しかしこの桜以外の木の花を食べるとか飲むとかいう話は聞いたことがなかった。そこであるとき宮城県出身の家内に確かめてみた。
 そしたら何と、かなり前のことだが、自分より年配の友人の家に遊びに行ったときニセアカシアの花のお茶をご馳走になったことがあると言う。家内もびっくりしてどうしたのかと聞いたら、近くの山に遊びに行ったときニセアカシアの花が咲いていたのでそれを採って塩漬けにしたのだとのこと、そしてそれを桜湯と同じように茶碗に入れ、それにお湯を注いでごちそうしてくれたのだそうである。うまかったかと聞くと強い香りはしたが、十分に飲めたという。
 しかし私には信じられない。ニセアカシアの花の満開時のあの強烈な臭い、私はあまり好きではないからである。ニセアカシアはミツバチが大好きとのこと、ミツバチにはいい匂いなのかもしれないのだが。
調べてみたら、花序ごと天ぷらにして食べるところもあるそうである。私はあの匂いからしてあまり食べたいと思わないのだが。

ニセアカシア、この名前からもわかるようにこれは明治期に渡来した外来植物である。したがってニセアカシアを食べる、漬けるようになったのは明治以降ということになるが、一体どこの誰が、どういう理由で飲食をするようになったのだろうか。
 よく川原などにたくさん自生しているのが見られるが、そもそも街路樹や砂防・土止めに植栽されてきたものが強い繁殖力、生命力であちこちに増えていったのだそうである。
今も道路工事などでできた傾斜地に土止め用としてニセアカシアが植栽されている(と言っても、それを見たのはもう30年も前の話、今も植栽されているかどうかはわからない)が、それを見るたびに心配になる、あの繁殖力からして生態系が撹乱されるのではないかと。調べてみたらやはり松や柳などの在来種を駆逐しているとのことである。
コンクリートで傾斜地を埋めるよりはニセアカシアで緑豊かにした方がいいような気もするが、生態系保全という視点から考えると、ちょっと金がかかっても日本在来の別の樹種の植栽で砂防、土止めを図っていくべきなのではないだろうか。そうすると養蜂業者が困るかもしれないが、それはそれで何等かの別の方法で解決してもらいたい。
それはそれとして、わが国で飲食の対象としている木の花は桜とニセアカシアの花だけのようである。もちろん私の知る限りでだが。
それでは木の葉はどうだろうか。次回はそれを見てみよう。

話をちょっとだけ戻す、桜湯、もう何十年も飲んでいない。この世から去る前にもう一度飲んで見たいものだ。
そういえば、茶の花や実を飲用に用いるという話は聞いたことがない。私の生まれ育ったところが茶の産地ではないから知らないだけなのかわからないが、こんな年齢になって初めて気が付いた。パソコンで検索したら飲用にするということは見つからなかった。どうなのだろうか。

なお、雑草の花と食についてはまた後に別途書かせていただこうと思っている。

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