【炊飯米飯】実需者ニーズにどう応えるのか2015年2月24日
・「産地ブランド米」は
欲しくない
・主食用米の4割は外食・中食で
・「24年産米の悪夢」を繰り返すな
・互いに事業が継続できるように
・魅力ある稲作を複数年産米コメ市場を開設
「食の外部化」がいわれて久しい。外食や調理済みの惣菜、電子レンジでチンするだけですぐ食べられるチルド食品、冷凍食品など、家庭で包丁やまな板がなくても調理せず食事ができる時代になっている。瑞穂の国・日本の主食であるコメにもこの時代の波は、確実にひたひたと押し寄せている。「実需者ニーズに応えた...」ものを供給することが、生産者サイドにも求められているという。それでは「日本人の主食・米」に求められているものは何か。それに米生産者は応えているのか。炊飯米飯を外食や中食、量販店に供給している事業者の団体である日本炊飯協会、そして惣菜や弁当などを製造・販売している事業者の団体である日本惣菜協会に取材した。
◆「産地ブランド米」は欲しくない
「コシヒカリはいらないよ。粘り気がなくて食味の良い、ササニシキみたいなコメがいいね」と長年にわたり、炊飯会社のトップとして活躍し、現在は日本炊飯協会の最高顧問を務める福田耕作さんはいう。
もちろんコシヒカリのようなブランド米を使っていることを「売り」にしている外食や中食を否定しているわけではない。それはそれで一つの商売のやり方だからだ。炊飯業者の納入先の多くは、回転寿司や丼物がメインの外食が多いので、そうしたところでは、あまり粘り気がないコメの方が歓迎されるということだ。
炊飯米飯は、家庭での炊飯とは異なり、炊き上がってすぐに食べるわけではない。後の工程を考えて「炊き上げてから15℃くらいに冷却する」ので、それに適し食味の良い「コメが欲しい」と日本惣菜協会の大隅和昭技術部長も家庭用のコメとはニーズが異なることを強調する。
◆主食用米の4割は外食・中食で
国内における主食用米の需要量は年間785万トン(25年産米、農水省)。そのうち中食・外食の米使用料は320万トンと主食用の40%を占めている。中食業界だけに絞っても155万トンと主食用米の20%に相当する量を使っている。
主食用米需要の4割を担っている実需者が求めているのは、福田さんや大隅さんが指摘するようなコメだ。日本惣菜協会の富山武夫事務局長は「いまの米産地は銘柄米一辺倒で業務用米が少ないので、中食などに適したコメをつくって欲しい」と、炊飯協会、惣菜協会、日本べんとう振興協会などで「国産米使用推進団体協議会」(国産米推進協)を結成し、農水省に要請しているという。
(写真はイメージです。日本炊飯協会ホームページより転載)
◆「24年産米の悪夢」を繰り返すな
この国産米推進協が結成されたのは「豊作だったにもかかわらず24年産米の価格が高騰したために、炊飯業者や中食業者が赤字になり、このままではやっていけない」との思いからだと同会の会長でもある福田さんはいう。
炊飯や中食業界では「24年産米の悪夢」といわれており、再びこれを繰り返してほしくないという声が強い。弁当業界では、米価が上がったので、使用する米飯量を1割減らしたり、米飯をパスタやパンに替えたりしてコストを抑えたという。そしてその後も米飯量をそのままにしているケースも多い。26産米の価格が下がったことは「嬉しい」と富山さんはいう。なぜなら、輸入に依存している惣菜や弁当のおかずに使う冷凍食品が円安で高くなり、コスト高になっているからだ。
しかしだからといって、闇雲に安いコメを求めているわけではない。炊飯業者も中食業者もビジネスとして経営しているわけだから、コストは大きな問題だが、「単に安いものだけを求めているわけではない。本来の需給関係からみて納得のできる価格の透明性」が必要だという。
◆互いに事業が継続できるように
福田さんは「事業は一過性ではなく、継続しているのだから、毎年、継続して安定した価格で、安定した品質のものを買いたい」。生産量が毎年安定しているのに、価格が年ごとに乱高下したのでは、経営として計画が立てられないからだ。それは「生産法人や専業で米を生産する農業者も、経営として考えれば同じではないか」とも。
富山さんは、炊飯や中食に適したコメを産地ブランド米より安く供給し、生産者も生産コストを抑え、手取りを確保するために「多収穫米生産」に取り組んで欲しいという。
中食や炊飯では「3年前までは、7割は米卸会社から仕入れていたが、いまは直接JAや大型生産法人から産地精米で仕入れる方が多くなっている」(福田さん)という。
そして、価格を含めて生産者側も炊飯・中食会社も安定的な取引を実現するために、国産米推進協は昨年秋に新しく「複数年産米コメ市場」を会員制クローズ型市場として設立した。
◆魅力ある稲作を 複数年産米コメ市場を開設
この「コメ市場」は、生産者(大型農業生産者とその団体、JA単協を含む集荷業者)側は、30ha以上の作付。実需者側(実需者、加工業者、流通業者)は年間1000トン以上使用が会員資格となっている。そして1回の取引契約は、精米100トン以上、納入単位はフレコンで12トンとなっている(紙袋は不可)。
炊飯業者は「中規模で年間5000トン、大きい会社は年間7万トンの精米を使用する」というし、中食でも規模の大きい会社は自社で炊飯するというから、この市場での取引数量は小さいといえるが、当面は、平成30年の「生産調整見直し時期」までの助走期間として、「構成員の情報交換の場」として位置づけ、29年以降は「現物の商流・物流の業務の確立に備える」としている。
そしてこの市場のコンセプトとして、
[1]生産者が安心してコメ作りができるように、複数年契約を視野に入れた播種前契約、収穫前契約、スポット契約ができるようにする。
[2]実需者は希望する品種の原料米を安定して確保でき「24年度の悪夢」を糧として、長期経営計画が立てられるようにする。
[3]玄米、精米価格は、生産コストと明日の再生産可能な適正な利潤を確保し、魅力ある稲作産業の発展を期し、価格の透明性を図ることを第一義とする。
を掲げている。
本格的に動き出すのはこれからで、どれほどの量が取引きされるのかは分からないが、こうした「実需者ニーズ」に、生産者やJAグループがどう応えるのか注目される。
◇ ◇
日本農業の根幹であり、長く日本経済そのものを支えてきた稲作農業は、いま大きな転換点を向かえているといえる。それは、人口減少や消費減退だけではなく、ライフスタイルや食生活の変化による「食の外部化」によるところも大きい。すでに住友化学や豊田通商などは多収性品種を手に入れ、契約生産・販売を始めた。三井化学グループは通常品種より最大で5割増収できる多収性品種を開発している。宮城県の古川農業試験場は企業が参画する品種開発を始める。中食・外食ニーズに応える品種開発・育成や生産に、JAやコメ産地がどう対応していくのか。それがいま問われているのではないだろうか。
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