【緊急寄稿・稲作農家の声】玄米60キロ2万円が"適正" 経費上昇、危うい「生命産業」2025年5月30日
”小泉米価”が話題になっているが、元JA福岡中央会農政部長の髙武孝充氏は「稲作の再生産可能な価格は60kg1万8000~2万円だ」という。今の状況をどうみるのか寄稿してもらった。
石破首相が、「米は買ったことがない」などとみっともない発言で更迭せざるを得なかった江藤拓農相の後任に選んだのは、何と小泉進次郎氏であった。小泉新農相は、安倍政権がおよそ10年前に強行した「農協改革」の先頭に立った自民党農林部会長であった。その小泉氏は農相就任後、「直ちに備蓄米の店頭価格を5kg2000円にする」と発言した。小泉農相は、店頭価格5kg2000円では農協への出荷価格では1万5000円(玄米60kg)程度にすぎないことを承知のうえでの発言であろうか。
他方で、自民党森山裕幹事長は「消費者には手ごろな価格での供給は必要だが、生産者手取りの米価格は再生産ができる価格でなければならない」と宮崎市での講演会で発言した。そのとおりであろう。福岡県糸島稲作経営研究会(以下「糸島稲研」)三役の岩崎博道氏(44歳)の令和6(2024)年分所得税青色申告決算書を参考に、聞き取りをおこなった。
1万2000円の米価では稲作は赤字
福岡県糸島稲作経営研究会・岩崎博道氏
髙武 岩崎さんの経営状況を教えてください。
岩崎 経営規模は水稲20ha、麦類25haの米麦二毛作経営です。農作業は私と常雇い2・5人でやっています。生産費は米麦合わせて、種苗費135万円、肥料費363万円、農薬費142万円、農業機械修繕費132万円、動力光熱費154万円、減価償却費584万円、荷造運賃手数料250万円、雇用労賃306万円、借地料180万円、合計2246万円です。肥料価格が高騰しているので、青色申告決算書で際立っているのは肥料代です。また、動力光熱費が膨らんでいるのは、軽油価格のアップによるものです。
この経費に対して米販売額が1510万円(うちJA直売所138万円)、麦販売額531万円、麦助成金が522万円で、合計が2563万円です。経費をカバーしての残りはわずか317万円の所得です。米販売額のうちJA直売所販売の138万円を除く1372万円は、農協出荷の1万2000円(玄米60kg)によるもので、稲作は完全に赤字です。裏作麦の助成金なくしては、経営は成り立ちません。民主党政権時代の戸別所得補償事業は、生産調整実施者には10アールを自家消費分として除き、それ以外の水田作付面積には10アール当たり1万5000円の交付金がありました。これはほんとうにありがたかったですね。
JA糸島の直売所「伊都菜彩」の価格は精米5kg3000円
髙武 「伊都菜彩」の米価はいくらですか。
岩崎 精米5kgが3000円です。直売所手数料15パーセントを引かれた5kg2550円が振り込まれます。これは玄米60kgでは2万円を超えるでしょう。これならば、稲作が赤字に落ち込むことはないでしょう。私が願っているのは、農協集荷玄米60kgの価格が最低1万8000円、できれば2万円の水準で安定すること、これに加えて民主党政権時代の戸別所得補償の1万5000円(10アール)を復活させることです。
髙武 森山裕幹事長の発言のように、生産者には高騰している生産費をしっかり補てんする再生産価格、消費者には手ごろで安定した供給価格を保証することが国の責任ですね。
岩崎 そうした仕組みができれば、米づくり農家は安心しておいしい米づくりに励むことができます。ぜひ、そうした制度を作って欲しいです。
【取材を終えて】
主穀である米の需給と価格を市場まかせにするという新自由主義的農政が続けば、今回のような「米騒動」が起こるのも当然である。農業は自然条件と表裏一体の産業であり生命産業であることを考えると、岩崎氏のような有望ある人材を不安にすることではなく、誇りを持って取り組める制度設計が必要だと強く感じた。「食」に関しては、生産者と消費者を対立させるような政治は許されない。(髙武孝充)
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