備蓄米放出でも消えぬ不足感(下) 米不足の恐れ、昨年より早く 「需給見通し」外れる背景は2025年3月18日
農水省のいう18万トンの生産増も31万トンの需要減も疑問がぬぐえない。24年産米は需要が先食いされている可能性も高い。それらを念頭に、1月の民間在庫量を起点に今後の推移を試算すると、8月にスーパーから米が消えた昨年より早く米不足が顕在化しかねないことがわかる。
1月在庫を起点に5月末を試算
(上)では、米は足りているとする農水省「需給見通し」に関わる3つの疑問を考えた。それを踏まえ(下)では、「大量の『消えた米』、スタックがどこかから出てくる」という仮定に立たず、6月末以降の民間在庫量を手堅く試算してみよう。

出所:「令和6年産米の契約・販売状況、民間在庫の推移及び米穀販売事業者における販売数量・販売価格の動向について」(令和7年1月末現在) 2025年2月28日、農水省
25年1月の民間在庫は230万トン(対前年比▲44万トン)だった。月々公表される民間在庫は調査範囲が限定されていて、漏れがある。6月末だけは「米の基本指針」を策定するために、販売段階では500~4000トンの業者に加え、生産者の在庫も調べる。24年6月末の場合、通常の民間在庫は115万トンだったが、基本指針ベースの調査では153万トンで、38万トンの差があった。
政府見通しが成り立つには66万トンの「スタック」必要
民間在庫は24年10月~25年1月、対前年差▲44万トンで推移している(農水省「全国段階の民間在庫の推移(うるち米)」)。24年6月末の在庫は前述のとおり115万トンだったので、▲44万トン減で推移すると25年6月末は71万トンとなる。
6月末の基本指針ベースの在庫量はどうなるか。
前述した71万トンに政府備蓄米放出分21万トンと、昨年の月々の在庫と基本指針ベースの調査との差38万トンを加えても、130万トン(在庫率20%)に過ぎない。農水省は158万トンと見込むが、そうなるためには38万トン以外に28万トン(計66万トン)もの「スタック」が出てこなければならない計算になる。これほどの量の在庫がどこかに保管されていると考え難いことは、系統内外を問わず多くの米取引関係者の共通した見方だ。
「取れるのは年1回、後は毎日減っていく」
農水省は3月17日、「3月3日の週」のスーパーでの米の販売価格が、5キロ当たり4077円(対前年同期+99.3%)だったと発表した。1年で2倍になった形だが、備蓄米放出で米の流通は安定し価格は下がるのか。
米穀機構が3月7日に公表した「米取引関係者の判断(令和7年2月)」は、主食用米の米価水準の見通し判断DI(向こう3ヵ月)が23下がって注目を集めた。回答者の28%が「国の政策」を考慮したと回答しており、政府備蓄米の放出効果とみられる。
需給動向の見通し判断DI(向こう3ヵ月)も10下がったが依然として「72」で、この数字は前年同月と変わらない。政府備蓄米放出を織り込んでも24年2月と同水準ということは、「価格は上げ止まり少し下がるかもしれないが、需給は引き締まっており、向こう3ヵ月も不足感は解消されない」というのが関係者の大方の見方だと思われる。
前出・集荷業者は言う。「米がとれるのは基本、年1回。後は毎日食べるので在庫量は減っていく。25年産米をめぐる集荷はさらに厳しくなりそうだ」

出所:「米取引関係者の判断に関する調査結果」(令和7年2月分) 2025年3月7日 米穀機構
職員の過剰削減が農業統計の精度に影響か
米の需給をめぐって、農水省が公表する統計の確度にも注目が集まる。
3月12日の衆議院農水委員会で、24年5月にも米不足について質問した北神圭朗議員(有志の会)が、「南海トラフ(地震)情報の前から、実は(米の)需給がひっ迫していたのではないか。統計の整備、分析の向上も含め見解を」と江藤大臣に質問した。
江藤大臣は「(農水省が示してきた)数字の上では余裕があったことはご理解いただきたい」と断った上で、「われわれ農水省は、統計部局を中心に人員削減を厳しくやられてきた。その弊害が一部出ているのかなという気はする。なるべく正確な数字を示す努力をしたい」と重要な答弁を行った。
農水省が示してきた「数字」、需給見通しが結果的に外れ、米が不足傾向にあることはもはや否定しがたい。米の安定供給を守るため、所得補償も含め米農家への思い切った支援強化に舵を切る時だ。その基礎として、農水省による需給見通しの精度向上とそのために必要な職員配置は待ったなしの課題といえる。
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