【クローズアップ】検証・復活畜産局初の政策決定 乳製品過剰37億円と食肉も目配り 農政ジャーナリスト・伊本克宜2021年12月27日
2022年度畜産酪農政策価格・関連対策が決まった。20年ぶりに復活した農水省畜産局初の政策価格・関連対策決定となったが、コロナ禍での生乳需給緩和の中で乳製品過剰是正を最優先した。綱渡りの需給環境が続き、酪農家の負債問題も懸念される。畜酪政策決定を検証する。
■20年ぶり畜産局への期待と限界
農水省の組織再編で今夏20年ぶりに復活した畜産局。大仕事が今回の22年度畜酪政策価格・関連対策の決定だった。
特に、自民党農林重鎮の江藤拓・党総合農林政策調査会会長が農相時に畜産部から格上げを主導しただけに、思い入れは人一倍だ。それが今回の政策決定にも色濃く反映された。
ほぼ、畜酪対策では酪農問題が大きな課題となる。復活・畜産局への期待の高まり。だが、実態は財政の厚い壁が存在した。新生・畜産局を率いる森健畜産局長と過剰が深刻な生乳需給を担当する大熊規義牛乳乳製品課長も畜酪行政への経験はほとんどない。副大臣には酪農・畑作地帯である道東・北見選出の武部新衆院議員が就いている。〈期待〉と〈限界〉の振り子は右に左にと揺れた。
■脱粉在庫深刻で2・5万トン対策
最大焦点は、放置すれば乳牛淘汰(とうた)も伴う減産となる生乳需給緩和への対応だ。農水省は当事者間の取り組み注視を繰り返した。危機感を募らせた業界は、Jミルクが調整しながら乳業メーカーと生産者団体が脱脂粉乳2万トン、試算約80億円の飼料用への輸入代替措置実施で合意した。
加工原料乳地帯で全国生乳の約6割を占める北海道・ホクレンの対応は限界に来ていた。既に今年度も道独自対策として90億円、酪農家段階で乳代キロ2円以上を負担している。中央酪農会議などは全国の指定団体が支え合う仕組みで、対応強化を検討した。大手乳業なども同意し業界挙げ、過剰が特に深刻な脱粉2万トンの在庫削減を進めていく。こうした動きに、具体的に国がどう支援するのかが問われた。
23日の政府・与党合意を経て、24日の農水省食料・農業・農村政策審議会畜産部会で正式決定した内容は、生乳需給対策で国が農畜産業機構(ALIC)財源約37億円を支援する。酪農・乳業が40億円ずつ合計80億円とほぼ見合いの金額となる。政府支援の内訳は脱粉対策に28億3000万円、販路拡大に残り8億4000万円。
ここで注目されるのは、脱粉の輸入代替をさらに5000トン上積みして2・5万トン処理とした点だ。つまりは国が、生乳生産の上振れ、牛乳消費の停滞も念頭に現状の乳性過剰の深刻度を重く見ている証左とも言える。
■アクセルとブレーキ
年末年始の生乳廃棄懸念で一挙にクローズアップされた生乳過剰問題。一方で畜酪生産基盤強化へ資金をつぎ込む畜産クラスター事業との整合性も問われた。
規模拡大、増頭・増産を促すクラスター事業と、酪農家への生産抑制呼びかけは、いわばアクセルとブレーキを同時に踏むような「矛盾」した対応だ。
生産現場は、増産を見込んでクラスター事業で多額の融資を受けている。減産となれば償還が滞りかねない。そこで、農水省は日本政策金融公庫に償還猶予を求め、同公庫も酪農家を対象に相談窓口を開設した。
■ウルトラC「全て据え置き」
農水省は今回、乳価、肉用子牛保証基準価格など政策価格を全て据え置くという〈ウルトラC〉を演じた。酪農、畜産とも「全て据え置き」はほとんど前例がない。
24日の畜産部会で算定方式を細かな数字で説明したが、どうやって据え置きになったのか。かつての生産者米価算定でもそうだったが、最初に結論ありきの「逆算当てはめ方式」で関連数字を修正するしかない。
特に難航が予想された酪農関連は〈3点セット〉の連立方程式で解を求める作業が強いられたはずだ。加工原料乳補給金等キロ10円85銭、かつての限度数量に当たる総交付対象数量345万トン、さらには脱粉2万トン処理への財政支援の三つをどう優先順位を付け、自民党農林議員と財政当局の理解を得ながら、軟着陸するのか。
最優先は脱粉処理への財政支援に絞られた。連立方程式の重要要素をピン留めし解へと導く。すでに北海道は乳製品過剰処理で酪農家の乳代からキロ2円強を拠出し、実質的な乳価下げを強いられているのが実態だ。そこへの支援は酪農家の経営支援と表裏一体と言えた。
加工原料乳補給金、集送乳調整金は、直近のコスト高をどう反映するのか。一方、脱粉対策最優先で財源は限られ、据え置きで関係者の納得を得た。増産に伴い交付金キロ10円85銭の対象外となる加工向けも数十万トン出るが、乳製品需給実態を踏まえ救済措置は見送られた。
■乳と肉の政策バランスにも腐心
畜酪対策で乳製品過剰が最大焦点となったが、農水省は畜産、食肉対策にも目配りし政策的バランスに腐心した。
畜産議員の重鎮は南九州出身者が多い。しかも、ALIC財源の中核は元々輸入牛肉などの差益金。畜産への配慮も欠かせない。肉用牛経営安定対策として、優良な繁殖雌牛導入に1頭4万円など、新たな支援を明示した。
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】荏原実業(3月27日付)2025年2月19日
-
地域農業維持 小さな農家支援や雇用が重要 食農審北陸ブロック 意見交換会2025年2月19日
-
農政変えるのは今 3・30トラクターデモを共に 令和の百姓一揆実行委・院内集会での現場報告から2025年2月19日
-
人がキツネになる前に 山形の米農家・菅野芳秀さん 「令和の百姓一揆」院内集会の発言から2025年2月19日
-
米の相対取引価格 過去最高を更新 60kg2万5927円 1月2025年2月19日
-
【地域を診る】地域の未来をつくる投資とは 公共性のチェック必要 京都橘大学教授 岡田知弘氏2025年2月19日
-
農林中金 奥理事長退任へ2025年2月19日
-
稲作農業が継続できる道【小松泰信・地方の眼力】2025年2月19日
-
荒茶の生産量 鹿児島がトップに 2024年産2025年2月19日
-
卓球アジアカップ出場の日本代表選手を「ニッポンの食」でサポート JA全農2025年2月19日
-
香港向け家きん由来製品 愛媛県、鹿児島、宮崎県からの輸出再開 農水省2025年2月19日
-
FC岐阜との協業でぎふの米の食育授業とサッカー教室 ぎふの米ブランド委員会(1)2025年2月19日
-
FC岐阜との協業でぎふの米の食育授業とサッカー教室 ぎふの米ブランド委員会(2)2025年2月19日
-
BASFとNEWGREEN 水稲栽培のカーボンファーミングプログラム共同プロジェクトで提携2025年2月19日
-
デジタル資産問題【消費者の目・花ちゃん】2025年2月19日
-
トラクタ体験乗車など「Farm Love with ファーマーズ&キッズフェスタ2025」に出展 井関農機2025年2月19日
-
野菜本来の味を生かした「国産野菜100%の野菜ジュース」3種を新発売 無印良品2025年2月19日
-
土壌データ見える化を手軽に「らくらく実りくんスマホ版」新発売 横山商会2025年2月19日
-
水田の中干し期間延長 J-クレジット創出方法を学ぶ勉強会開催 Green Carbon2025年2月19日
-
旬の味覚「長崎いちご」発信 特別展示「FOOD DESTINATION PORT」開催 長崎県2025年2月19日