【次期酪肉近骨子案】将来展望は「不透明」 事業要件に「需給」、アウト安売りも俎上2025年2月20日
農水省は18日、自民畜酪委員会に次期酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近)の骨子案を示した。5年後生産目標は現行生乳780万トンを念頭に「現状並み」とした。生乳需給安定に向け改正畜安法の規律強化を示したが、実効性は不透明なままだ。全参加型の確実な需給調整実施と、生産基盤維持へ経営安定対策拡充が課題だ。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
濃厚飼料代替としての子実用トウモロコシの収穫。
だが次期酪肉近骨子案では自給濃厚飼料の記述が欠落している
■5年後「現状の生産量並み」
次期酪肉近は、現在論議中の新たな食料・農業・農村基本計画と整合性を持たせ、5年後の2030年度目標とした。焦点の一つ、生乳生産目標は現行目標780万トンを念頭に置いた。
◇酪肉近骨子案ポイント
〇総論
・需要に応じた生乳、牛肉生産の推進
・環境負荷低減などの取り組み推進
・2030年度生産目標は「現状の生産量並み」
〇酪農
・生乳需給調整への協力を補助事業参加の要件にする「クロスコンプライアンス」の導入
・改正畜安法を踏まえ生乳取引契約の順守、規律の強化
・加工原料乳生産者経営安定対策(ナラシ対策)のメニュー拡充
〇肉用牛
・低コスト生産へ早期出荷など多様な肥育形態の推進
・和牛の持続的な生産、遺伝資源の多様性にも配慮した種雄牛造成や雌牛の改良
・A5比率が高まる中で脂肪交雑と食味のバランスを重視した肉質・価値の情報発信
〇飼料
・青刈りトウモロコシなどの生産拡大
・耕畜連携の推進
■生産目標5年後、長期2本立てに
18日の自民畜酪委では、生産目標について5年後の2030年度と長期目標の2本立てで示すのかとの質問が出た。農水省は「2本立てで示す」とした。
通常、5年に一度見直す酪肉近は、今後10年の生産目標を示す。北海道の議員からは「生産現場の意欲に最大限配慮すべき」として、5年後目標の現行780万トン堅持とともに、長期目標に関連し「780万トンプラスアルファ」を検討するよう求めた。
農水省は脱脂粉乳過剰など現状の需給状況を説明するとともに、5年後目標の具体的数字についても国、乳業メーカー、生産者一体で牛乳・乳製品の消費拡大、需要喚起を実施したうえでの数字となると、生産目標と需要拡大策が「セット」になる考えを強調した。
■「生産基盤強化重視を」
自民畜酪委で「骨子案の全体像に生産基盤の維持という言葉が全く入っていないのはおかしい」との指摘が出た。農水省は「生産基盤強化は本文に掲載している」と応じた。
「全体像」は次期酪肉近の問題意識と重要項目を簡潔に示す。ここで「生産基盤」も表記がないことは大きな問題だ。指定生乳生産者団体への受託戸数が1万戸の大台割れとなる中で、酪農家戸数の維持、生産基盤をどう守るのかとの視点が後景化すれば、国産牛乳・乳乳製品の安定供給にも大きな支障が出かねない。
農水省は畜産部会の説明でも「農家戸数は重要な要素の一つ」としながらも、後継牛を中心に乳牛頭数の今後の増減傾向を中心に、生産面での動向を示してきた。やはり、都府県を中心に減少に歯止めがかからない酪農家戸数の維持も念頭にした「生産基盤の維持・拡充」を次期酪肉近の柱の一つに据えることが欠かせない。
■「国の支援に限界」表記に疑問
酪農関連で骨子案本文に記述された「国による支援の規模には限りがある」の表現にも注文が出た。
財源には限りがあるのは当然だが、酪肉近でわざわざ「国の支援には限界」と明記することが、生産現場に誤ったメッセージとならないかとの指摘だ。生乳需給改善で生産者、乳業メーカーが協調対応する動きを踏まえ、業界の自助努力を、国が後方支援する姿勢を示したものとみられる。
ただ、食料・農業・農村基本法にも「国の責務」が明記してある。畜酪は農業生産額でも約4割のシェアを占める一方で、生産基盤の弱体化、特に戸数減が加速している。畜酪委出席議員からは「国の支援には限界」の表記を疑問視、「あくまで国主導で生乳需給調整や経営安定化などで対応すべき」との声も出た。
■濃厚飼料自給は「空白」
骨子案では国産飼料自給向上も強調された。そのために耕畜連携やコントラクター、混合飼料調整を担うTMRセンターの役割強化などを挙げた。
特に、強調したのが青刈りトウモロコシの作付け拡大、増産への姿勢だ。そのためにも、関連施設・機械への支援も検討するとした。
半面、2割台にとどまっている飼料自給率の主因である、濃厚飼料の自給率向上には全く踏み込んでいない。生産現場からは濃厚飼料代替の子実用トウモロコシ増産支援の声が出ている。JA全農では、水田転作も含め子実用トウモロコシでの効率的な肉牛肥育で試験を重ねてきた。濃厚飼料の自給率は約13%と極端に低いのが実態だ。次期酪肉近で、現在、事実上「空白」となっている濃厚飼料の自給アップへ具体的にどういった表現を盛り込むかが今後の焦点の一つとなる。
■アウト規制と牛乳安売り
改正畜安法に伴う生乳流通自由化で指定団体経由の牛乳と、非系統の原乳を使った牛乳で、末端小売価格で大きな価格差が出ていることでも質疑となった。
合理的な価格形成への法改正との絡みで、指定団体外のアウトサイダーのコスト割れ牛乳の安売りの実態でも、公正取引委員会への通知などで質問が出た。
生乳流通自由化で牛乳小売価格は「両極化」しているのが実態だ。スーパー店頭では大手メーカーのNB牛乳が1リットル300円近い半面、非系統の原乳を追使用した中小メーカー牛乳が同200円前後と5割近い価格差がついている。拡販のため、大手メーカーが小売価格を下げれば、今後の飲用向け生産者価格の引き下げ要因にもつながりかねない。
農水省では「事実として系統、系統外も流通業者や乳業メーカー段階までは販売価格はほとんど変わらない」としたうえで、「小売価格で100円の差がつくのは商品の考え方としての対応」と説明した。同省に説明の根拠は系統、非系統の聞き取り調査による。だが、商売上の秘密事項も含め、系統外の乳価実態は「ブラックボックス」の要素も大きいとの指摘も多い。
取引量を一定に保証する代わりに割安な原乳が流通し、末端小売価格の引き下げ余地が出ていると見られている。例えば大手量販店OKストアは中小メーカーの近藤牛乳を同180円台で通販を続けている。大量の取り扱いと割安な納入価格の関係が低価格を実現させていると考えるのが普通だ。
今後、牛乳流通の実態にもメスを入れ、合理的で持続可能か牛乳価格の在り方も問われている。
■欠陥・畜安法踏み込み不足
次期酪肉近で酪農は〈欠陥法〉とも指摘される改正畜産経営安定法の抜本見直しが課題だ。農水省の姿勢は補助事業に「需給調整」参加を要件とするクロスコンプライアンスを導入する。一歩前進だが、そもそも畜安法そのものの抜本改正になぜ踏み込まないのか疑問だ。
畜安法の一番の問題点は、生乳流通自由化を促し指定生乳生産者団体の受託乳量シュア縮小に伴う需給調整機能の弱体化だ。生乳需給コントロールが弱まれば、結局は減産、将来不安、酪農家の離農に拍車がかかる。同法が「畜産経営不安定法」とも言われる所以だ。
これまでの畜産部会での具体的意見を見よう。これらは、生産現場に混乱を招き、需給調整リスクが指定団体に偏重している改正畜安法の課題を踏まえたものだ。
・「食料有事も前提に国内生産の維持・拡大を基本に、具体的な政策による裏付けある基本方針を策定すべき」松田克也日本乳業協会会長(明治社長)
・「畜安法運用の規律強化、生乳需給調整のため系統外も含めたセーフティーネット構築で、生産者・乳業者・国が一体となった仕組みを確立すべき」馬場利彦JA全中専務
・「次期酪肉近では生産抑制をしないで済むような需給調整を明記すべき。現行780万トンの生産目標を下回らないようにしてもらいたい」小椋茂敏JA北海道中央会副会長
畜産局では「畜安法の中でそれぞれが果たすべき役割や規律にも引き続き取り組んでいきたい」と一般論で応じた。問題は畜安法に「需給調整の実施」を明記し、国主導で新たな需給調整の仕組みを具体的に講じることだ。だが畜安法の抜本見直しの具体的な言及はない。
■需給強化へ「非系統」にも照準
改正畜安法の規律強化と絡め農水省による「クロスコンプライアンス」導入を受け、生処販で構成するJミルクは4月から「酪農乳業需給変動対策特別事業」を行う。
ポイントは、現在の脱脂粉乳在庫対策に伴う負担が指定生乳生産者団体傘下の酪農家に偏在している中で、指定団体に出荷していない非系統を含めた全参加型需給対応に動き出したことだ。
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