【育成就労制度で変わる農業現場】「国際貢献」から「人材の育成・確保」へ(3)2026年2月12日
農業の現場では、外国人材が貴重な労働力となっている。2027年4月1日から施行される、外国人材の「育成就労制度」について、農林中金総合研究所(農中総研)のリサーチ&ソリューション第1部マネージャー・主事研究員の石田一喜氏に新制度の特徴と、今後の外国人材の課題を聞いた。
農中総研リサーチ&ソリューション第1部マネージャー・主事研究員の石田一喜氏
日本語要件と転籍の課題
育成就労制度は、特定技能へ移行するルートを制度として明確化し、接続を前提に一本化した点が大きな特徴だと理解しています。技能実習と特定技能も実質的には接続していましたが、制度上は別物でした。そこを制度の骨格として整理したわけです。
新たな特徴として日本語能力を重視した点があります。日本で長く働き、段階的にキャリアを積むなら日本語は不可欠であり、意思を伝えられない・相談できないことが人権侵害やトラブルの背景になっているとすれば、日本語で解決できる問題は多い。一方で、入国前から一定水準に日本語要件(日本語能力試験N5相当)を求めることが、日本への来日を断念する理由にならないような配慮は必要と感じます。また、受入側が「日本語教育は経営にプラス」と理解できなければ、単なるコストとして扱われがちです。
技能実習制度と育成就労制度の比較(農中総研資料)
さらに難しいのは、教育費を受入農家が負担しても、転籍(同一職種内の移籍:「育成就労制度」で可能に)すれば成果が別の経営体に移る点です。初期投資への補填は制度化されたものの、負担と便益のズレは新しい制度課題として残ります。日本語は権利保護やコミュニケーションにも直結しますが、全員が長期定着するとは限らず、教育の濃淡も出る。農業技術は品目が変われば活かしにくい場合がある一方、日本語はどこでも通用するため、なおさら負担感が出やすい。事業者任せには限界があり、国・自治体の関与も決まっていますが、どこまで関与できるかは今後の議論を待つところです。
受け入れ準備の遅れを懸念
運用面では、監理団体の名称が「監理支援機関」に変わり、厳格化された要件等が課されることが決まっています。要件の一つとして役職員1人当たりの受入れ上限が設けられます。結果として、監理支援機関が少人数雇用の農家を支援するより、多く雇う経営体を支援する方を選択し、小規模農家が不利になる可能性があります。
受入れが難しくなれば、育成就労を介さず最初から特定技能で受け入れる流れが強まるかもしれません。実際、技能実習3年+特定技能5年を志向する地域もあれば、最初から特定技能一本という地域もあります。農業分野では選果場作業などの制限が緩和され、一般労働者に近づく点は改善ですが、書類管理や日誌作成など事務負担は残ります。
最大の懸念はスケジュールです。育成就労制度の施行前に技能実習生を駆け込み的に受け入れることが進み、初年度は育成就労があまり使われない可能性もある。しかし、その後、現場が新制度に対応できるかが問われます。1990年代以降続いてきた仕組みの30年ぶりの大改正で、当時を知る人も少なく、制度変更を十分理解しないまま移行が始まる印象が強い。意義は理解しつつも、準備不足のまま走り出した制度、という評価は残ります。
人手不足対策が突出
農業現場の外国人労働者(農中総研資料)
農業分野では、外国人材はすでに欠かせない存在です。技能実習生と特定技能外国人は2024年12月に6万人を超え、毎年約6000人ずつ増えています。特定技能は在留期間に上限(特定技能1号は通算5年)があるため、今後も同じペースで増えるかは不透明ですが、現場の人手不足の深刻さを示す数字であることは間違いありません。
日本人の基幹的農業従事者が急速に減少し、その穴を埋める形で外国人雇用が進んでいると考えられますが、選果場などを支えてきたパート労働者も高齢化で減少し、その部分も外国人が補っています。農業分野で外国人雇用を人手不足対策として重視する割合が突出して高いことも、現場の切実さを示しています。若年層の労働力だけを見ると、外国人の比重はさらに大きくなっています。
導入は地域や品目によって異なり、野菜や一部畜産など労働集約的な分野で進んでいます。近年は機械作業も任せる動きが広がり、仕事の内容も高度化しています。スマート農業の普及により初心者でも作業しやすい環境が整いつつあることも、外国人に任せる業務範囲の拡大を後押ししています。人手不足を単純に人数で補うだけでなく、経営効率化や作業体系の見直しと並行して考える必要があります。
出身国も中国からベトナム、現在はインドネシアへと変化しており、今後はインドなど新たな地域への関心も高まっていますが、政治情勢や社会条件の影響も受けやすいのも実情です。一方で、特定技能2号の拡大により長期雇用が可能になった結果、賃金や職務内容、キャリア形成を改善しなければ人材は定着しません。結局は、雇用を維持できる経営体に人材が集中していくことになります。
経営体の弱体化をどう補うか
農業は家族経営が多く、雇用管理や人材育成の経験が乏しい経営体も少なくありません。通年で仕事を確保できない地域も多く、夏と冬で仕事量に大きな差がある構造は、これまでも雇用拡大を難しくしてきました。外国人雇用の拡大によって、この課題が改めて表面化しています。
他産業と比較すると、賃金水準やキャリアアップの仕組みも弱く、屋外作業の厳しさもあって人材確保は容易ではありません。従業員として長く働く将来像を描きにくい産業であったことも事実であり、今後は経営体の弱体化をどう補うかという課題の中で外国人雇用が位置付けられていますが、決して簡単な挑戦ではないと感じています。
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