アケビ―甘い果肉と苦い皮―【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第376回2026年2月12日

前回まで、山野に自生する木に生(な)る果実のうち栗、胡桃、どんぐり等の成熟すると果皮が硬く乾燥する果実、いわゆる「木の実」=乾果について述べてきたが、同じく山野に自生する木に生る果実のなかに果皮や果肉が柔らかい果実=軟果があり、その中に人間が食用としているものがある。私の場合、近くに山がないのでそうした果実を自分で採って食べることはできなかったが、炊事担当の祖母をはじめとする家族の誰かがどこからか手に入れてくるのをもらって、あるいはそれを加工調理してくれたものを食べることはけっこうあった。
たとえばアケビがそうである。
私の子どものころの秋のある日、学校から帰って来ると、祖母がざるに入った十数個のアケビのなかから一個か二個をおやつとして私たちにくれる。
家にはアケビの木はないし、山に採りに行く暇など家族にないのだからどこからか手に入れたものだろう。よく山村の人がさまざまな山の産物を売りにくるが、その人から買うのか、どこかの店から買うのか、あるいはもらい物なのか、わからない。
アケビの皮は紫色がかっていて上に縦に一本の筋が見られるようになっており、その筋目に沿って割れそうになっているもの、あるいはすでにぱっかりと割れているものもある。私たちはその中からできるだけ熟した(紫色になった)大きな実をとる。割れ目にそって剥くと、中にトロロイモ(ナガイモ)をすりおろしたような白いねばねばした膜に包まれた細長い楕円形の実が現れる。その実の中には黒い種がたくさん入っているのだが、それをかじって口の中に含むと、固い小さい種を包んでいる白い膜の甘みが口の中に拡がる。その甘いゼリーのような膜を味わいながら、口の中で舌でそれと種をうまく分け、甘いものはのどに流し込み、残った種は口の外に吐き出す。これを3~4回繰り返すともう甘味はなくなっている。そこで次の実にとりかかる(こんな自明のことをなぜ延々と書くのかと思われる方もあろうが、今の若い人のなかにはアケビを知ってはいても食べたことがないという方もいるので、あえて書いてみた次第である)。
特別うまいわけではない。お腹がふくらむわけでもない。食べやすくもない。でも甘味に餓えていた私たちの子ども時代(砂糖が貴重だった時代)は喜んで食べたものだった。
問題は、食べているときに間違って皮をなめてしまったり、かじったりしたときだ。皮の苦みが口の中に残り、どうしようもなくなる。
このような苦い皮、当然のことながら食べない。どんな山国に行ってもアケビの皮を食べるなどという話を聞いたことがない。
ところが、私の故郷の山形内陸ではその皮を食べる。祖母がアケビを手に入れるのも、子どものおやつとしてではなく、中身を取った後の皮をいろいろ調理してご飯のおかずとして食べるためなのである。たとえば油で炒めたり、半分に割れた皮のなかに味噌(最近はそれに肉を和えたりする)を詰めて煮たり、揚げたりして食べる。苦みは少なくなり、それなりの風味・ほろ苦さがあり、子どもでも食べられるようになっているのだが、私は苦手だった。食べられなかった。今はさすがに食べられるが、特別食べたいとは思わない。でも家内は好きなようてある。何かの時に自分で料理しておかずに出したこともある。その一部を近所の友人たちに食べさせたところ、それがアケビだということは全員わからなかったと笑いながら言ったことがある。
アケビの皮は、薄い上皮を剥ぐと真っ白である。仙台で小料理屋を出している山形出身の女将がその皮を軽くゆがいて梅干しで味付け、色付けして客の私たちに出してくれたことがある。うっすらとピンク色に染まってきれいである。私は食べてすぐにそれがアケビだとわかったが、同席した人たちは何だろうとみんな首をかしげる。ある人が言った、ゆでた生イカを梅干しで漬けたのではないかと。なるほどそう見えるかもしれない。よく考えたものだと私は誉めたが、それにしては苦いだろうと言うと、たしかにその通り、何だろうと彼等はまた首をかしげる。
正解を言うとみんなびっくり、それからおかみは山形伝統のアケビの味噌・肉詰めなどを出す、みんなはまた驚く。
そして私に言う、アケビの皮を食べるなんて山形内陸人はよほど餓えていたのか、ゲテモノ食いなのかと(注)。
いうまでもなく、アケビは山野に自生する蔓性の低木である。それで山にあけび採りに行って、あるいはそれを買い、もらって自分の家で食べていたのだが、やがて自家用として庭や垣根などに植える人たちが出てきた。私の生家でも1960年ころではなかったろうか苗を手に入れて垣根のところに一本植えた(ただし、実をとるよりも芽を食べるためだったが、これについてはまた後に別節で述べたい)。
さらに畑で栽培するようにもなってきた。各家庭からばかりでなく料理屋等からの需要もあり、山野から採るだけではそれに対応できなくなってきたからである。もちろん兼業化の進展による山村の労力不足で山に採りに行って売る人が減ったということもあったろうが。
1970年代に入ったころだったと思う、山形県の職員の方からこんな話を聞いたことがある。県内のある町のある地域でアケビ園を造成するために農業構造改善事業を導入しようとした。県も当然それを承認し、農水省に書類をあげた。そしたら本省の役人が飛んできて、何でアケビのようなものの園地を造成するのか、そんな趣味や遊びとしか思えない事業に補助金は出せないとかんかんになって怒った。そこで県職員は、山形の食文化、それに対応する新たな農業生産の創出の必要性等々について説明をし、試食もしてもらった。そしたら、よくわかりました、ぜひがんばってくださいと感激して東京に帰っていった。もちろん事業は承認された。
その話を聞いたときは思わず笑ってしまったが、今は各地で園地で栽培されるようになっている。もちろん山形内陸だけである。需要もそうである。私としては全国の人に食べるようになってもらいたいのだが。ゲテモノ食いを増やすなと笑われるかもしれないが。
(注)皮を乾燥したり、塩漬けしたりして保存し、煮ものにして食べたりする地域もあるそうである。私の生家では保存できるほどの量もないからだろう、そうやって食べたことはなかった。
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