子牛高値に素牛自賄い 酪農と連携で拠点施設―熊本・JA菊池が挑戦2017年9月8日
子牛価格の急騰に見られるように肥育素牛の不足が深刻になっている。このため、熊本県のJA菊池は自前で素牛を確保しようと、繁殖・育成を目的とするキャトルブリーディングステーション(CBS)事業の取り組みを始めた。子牛素牛を管内の肥育農家に安く供給し、肥育経営の安定に努める。西日本最大規模の酪農地帯であることを活かし、乳用牛の受精卵移植で和子牛を確保する。9月4日、菊池市に建設中だったCBSが完成。3年後をめどに年間500頭の出荷をめざす。
熊本県の菊池地域は、県内肥育牛生産の40%を占める一大肥育産地だが、肥育素牛の一部は他県に依存している。しかし素牛が全国的に不足しており、特にこの数年、価格が急騰し、肥育農家の経営を圧迫している。
(写真)蒲島知事(左から3人目)もかけつけた4日の竣工式。左から4人目が三角組合長。
この素牛供給不足に対応するため、JA菊池では繁殖基盤の確立に努め、現在まで約4100頭にまで増やした。しかし、管内で必要とする肥育素牛(黒毛和種)は約5000頭で、1000頭ほど不足の状態が続いている。JAでは繁殖農家に増頭や、肥育農家に繁殖を取り入れるよう働きかけているが、素牛の価格が急騰し、対応しきれていないのが現状。
このためJAでは「個人での取り組みは、ほぼ限界に達している」と判断し、CBS事業の導入に踏み切った。事業では、管内の酪農家から母牛とする乳牝牛を預かり、ステーションで受精卵移植を行う。受精後一旦酪農家に返し、生まれた子牛は生後1週間程度で酪農家から全て買い取る。受精卵や引き取った後の管理にかかる費用はJAが負担。また、黒毛和種だけでなく褐毛和種(赤牛)、それに酪農家のための酪農後継牛の生産なども行なう。さらにJAでも和牛の繁殖母牛を所有し、人工授精で黒毛和種を生産する。
(写真)子牛の安定・供給の拠点
計画では、乳牛預託の母牛240頭、繁殖母牛200頭から、それぞれ最大140頭、180頭で、合計320頭の子牛を生産する。ほかに酪農家グループの会社からの預託で、受精卵移植・育成する子牛180頭を加え、年間500頭を出荷する。出荷する子牛は、素牛として肥育農家に販売する。価格は近隣の家畜市場の市況を参考に、それよりも安く供給する考えだ。
CBSは平成28年度国の畜産クラスター事業を利用し、総額約9億5000万円をかけて整備したもので、事業と核となる施設。常時850頭を飼養し、搾乳ロボットや自動給餌機、発情発見器などを完備する。
4日のステーションの竣工式で、同JAの三角修組合長は「肥育素牛や搾乳用素牛のいずれも不足しているかなかで、西日本一の畜産地帯にあるJAとして、何ができるか考えて取り組んだ。子牛の安定供給・生産の拠点であり、地域の総合的な肉用牛振興の核としたい。研修もできるように宿泊施設も設けた。後継者の育成にも力を入れたい」と述べた。また来賓として出席した蒲島郁夫・熊本県知事は「熊本地震復興のシンボルとして、また全国の畜産のモデルとなる取り組みとなって欲しい」と期待を込めた。
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